乳がんによる胸の全摘後にやってきたのは下着の悩み。39歳の神田文子さんは商品を探し「買っては試して」の日々だったそう。そしてついに「理想の補正下着」に出合います。その情動から、意外な行動に出たのです── 。(全3回中の2回)

下着売り場の試着室で涙「さらし者みたい」

── 神田さんは2008年に39歳で乳がんが発覚し、左胸を全摘後、胸の形に合う下着が見つからず社会復帰に悩んだそうですね。

 

神田さん:手術で左胸を全摘したんですが、退院後すぐに家業である不動産の営業の仕事を再開しなければなりませんでした。ただ、どうしても服を着ると胸の左右差が気になってしまって…。

 

左胸のブラジャーにパッドを入れていたんですが、ちょっとしたことですぐズレてしまったんです。営業中にお客さんの視線が気になって胸を確認すると、パッドが下着から飛び出て、胸が変な形になっていたことがよくありました。手術前は7号サイズの服を着ていたんですが、13号ぐらいのダボっとした服しか着られなくなってしまいました。Tシャツなど、身体のラインが目立つ服は着られなくなりましたね。

 

── そうだったんですね。下着は相当な数を試したそうですね。

 

神田さん:当時は今ほどネット通販が普及していなかったので、人に話を聞いたり、本で調べたりしながら、いろいろ買って試しました。ただ、とにかく胸の形に合わないし、腕をちょっと上げただけでもズレてしまうんですね。

 

下着メーカーさんの乳がん用下着の売り場にも行ったんですが、試着室の若い女性スタッフの方が、私の胸の傷を見た瞬間に「アッ」とひるんだんです。その瞬間、涙が止まらなくなってしまいました。なんでこんなさらし者みたいな思いをしながら、下着を探さなきゃいけないのかな、と。

 

神田文子
39歳でがんの告知をうけたころの神田さん

── それはつらかったですね…。

 

神田さん:そんなときに、たまたま携帯を見ていたら、乳がん術後用のパッドの広告を、インターネットで目にしたんです。やわらかいので下着に挟めばズレにくく、パットの形も自由に変えられるんです。「これはすごい!」と、広告を見た2日後、販売元のリプロ社がある旭川へ、アポなしで訪問しました。何の連絡もせず行ったので、あちらとしても「え、誰?」という感じだったと思います(笑)。

 

女性の社長がおひとりで経営している会社でした。私の手術の傷も見せて、とにかく悩んでいることを訴えました。その方はきめ細やかなお仕事をされる方で、北海道の病院を自分で回って販売していらっしゃるので、本州に卸したら自分の目が行き届かなくなるのが怖い、というお話でした。リプロのパッドは、パッドの中にチップが入っており、手術していないほうの健常な胸の形に合わせて形を自由に変えられることが最大の特徴なんです。ただ、試着段階で胸のサイズや形に合わせてチップの量を調整したり、胸の形に合わせた装着方法を知る必要がありました。

 

まずは私自身が購入して使ってみたのですが、軽くてズレず、手術前に使っていたブラジャーにそのまま使用できてとても便利だったんです。それで「この商品を私のように悩んでいる方に紹介したい」と思い、販売だけでなく、試着サロンを作って使い方までフォローすると説得しました。リプロの社長さんが北海道の病院にカウンセリングやフィッティングに回るのにも同行させてもらったりしながら、1年半かけて販売許可をいただきました。