わかりあえないものはしょうがない

── たしかにそうですね。
佐藤さん:あとは、海外に行ったら私のことを理解してくれる人がたくさんいるかなと思っていたんですけど、結局どこに行っても変わらないというか。私がトランスジェンダーだから、ということは関係なくて、人間には大きくわけて2タイプいるなと気づきました。シンプルに言うと「わかりあえる人」と「わかりあえない人」です。
言葉が通じなくても、翻訳機やボディランゲージを使ってわかりあえる人はいますし、逆に言語が通じてもそもそも会話にならない人もいます。最初は誤解があっても話し合えばわかりあえる人もいますが、どれだけ話し合っても理解しようとしない人もいます。そう割りきったら、理解しあえないこともしょうがないなと思えるようになりました。
── 新しい発見ですね。
佐藤さん:はい。その発見のおかげで、自分を理解して、認めてあげられるのは自分しかいないって気づきました。だからこそ「自分だけは自分の敵にならないでいよう」と思うようになって。たとえば、周りから変な目で見られていると感じたとき、それをダイレクトに自分のなかに入れてしまうと、誰も味方がいなくてつらくなるんですよね。だから、他人から向けられた悪意をそのまま吸収しないことを意識しています。意地悪なことをされたり嫌なことを言われたら、まずは自分でちゃんと否定する。そうすることで、人間関係がとても楽になりました。
── 相手からの意地悪な評価をそのまま受け入れないということですね。
佐藤さん:はい。他人はいろいろと判断したり評価したりしますが、そこにとらわれないようにしています。自分が好きなことをして、自分が自分の味方でいることが、結果的に自分らしくいられることにつながると思っています。
── とはいえ実践するのは難しいですよね。
佐藤さん:わかります。友達からも日々いろいろな悩みを聞きます。職場の人間関係など、いろいろありますよね。ただ、今いる環境で人間関係に困っている方がいたら、「その世界にこだわっているのは、意外と自分だけかもしれない」と、一歩引いてみるのもありだと思います。別の場所でもっと居心地のいい人間関係が築けるはずですし、「ここじゃなきゃダメ!」と、今の自分の置かれている環境に過剰に責任を感じる必要はないと思います。
── なるほど。
佐藤さん:やっぱり、いろんな人がいますからね。でも、自分が健やかに暮らすためには、向き合わなければいけないことと、向き合わなくてもいいことを見極めて、手放すことも大切だと思います。あまり無理をせず、自分にとって居心地のいい環境を見つけてほしいなと思います。