あまりの痛さに思わず「痛ーい!痛ーい!」と声をあげ

── 入院後はどんな準備があったのですか?

 

市川さん:手術の3日前に入院していろんな検査を受けながら、口腔外科で虫歯などの処置をしました。手術後は抵抗力が弱まっているので、口腔内を清潔にしておかないと、手術をした部位が感染を起こす恐れがあるからだそうです。前日は絶食で、水だけを口にしていました。何もかも初めてのことでドキドキしながら、手術当日を迎えました。

 

── 手術の際の麻酔がものすごく痛かったとブログに書いていらっしゃいました。

 

市川さん:そうなんです!卵巣腫瘍の開腹手術を経験した知り合いから、全身麻酔がかなり痛いけれど、そこだけ我慢すれば大丈夫だと聞いていたので、覚悟はしていたんです。それでも我慢できないくらい、想像を超える痛さで、思わず「痛―い!痛―い!!」と叫んでしまいました。気がついたら麻酔が効いていて、手術は6時間におよんだそうです。開腹してみないとどこまで腫瘍が広がっているかわからないと聞いていましたが、結果的に卵巣と子宮、リンパ節、腹膜を切除しました。手術が終わって目覚めたときには体じゅうに激痛が走って、痛み止めを何本も追加してもらいました。

 

── その後はどのような治療になったのですか?

 

市川さん:採取した組織を病理検査した結果を待っていました。そこで悪性であればがんになるのですが、自分のなかでは勝手に前向きになっていて、次はリハビリに進むのかな、体力を早く回復させないと、というくらいに考えていたんです。でも結果は「ステージ1の卵巣がん」。抗がん剤治療を受けることになりました。手術という大きな山を越えたのに、目の前にもうひとつの山が現れたように感じて、早くもくじけそうになり「先生、卵巣や子宮を切除したのに、抗がん剤投与は絶対にやらないといけないんですか?」と聞いてしまいました。やはりがんは転移や再発が心配なので、抗がん剤治療をやりましょうと言われ、長期戦を覚悟しました。

 

 

抗がん剤治療が始まった市川さん。髪が抜けるなどの副作用に苦しみましたが、毎回5時間の抗がん剤投与にも耐えました。しかし開腹手術の影響で歌声に力が入らず、一時は歌手復帰をあきらめかけたこともあったそうです。そこから市川さんは「命の恩人」と呼ぶ由紀さおりさんや母親の支えを得て、もう一度ステージに立つと決意。そして2025年3月、実に9か月ぶりに人前で歌うことができました。


取材・文/富田夏子 写真提供/市川由紀乃