夫・青木宣親選手がメジャー挑戦中の2013年に現地で第2子を出産した妻の佐知さん。当初は「夫は試合、妻は出産」と役割分担するのが夫婦でも当然と思っていたそうですが、当時の所属先の監督が ──。(全3回中の2回)

「ワイフ会」を通して知った家庭のあり方の違い

── 青木さんの旦那さんは元メジャーリーガーの青木宣親さんですが、青木選手がアメリカでメジャー挑戦するにあたり、生後数か月の長女を連れて同行されたとのこと。現地でははじめての経験ばかりだったのではないでしょうか。

 

青木さん:知っている人はほとんどいなくて、本当に未知の世界に飛び込む感覚でした。英語は得意ではなかったけれど、なんとかなるだろうとも思っていました。というのも、まったく見知らぬ土地で言葉が話せなくても「伝えようとする気持ち」があれば、人に思いは必ず届くと信じていたからです。

 

現地に行ってみると、メジャーリーグの選手やその家族は、英語が母国語ではない人がたくさんいました。私が話をすると、周囲の人たちは「サチの英語力はこれくらいね」と把握してくれて、私が理解できる単語を使い、ゆっくりと話をしてくれるようになりました。

 

それに、メジャーリーグの球団は選手の家族も結束が固いんです。家族も含めてひとつのチームみたいでした。夫が最初に所属した球団はミルウォーキー・ブルワーズだったのですが、引っ越ししてすぐにチームの関係者からメールアドレスを聞かれました。「選手の奥さんたちが参加している『ワイフ会』っていうのがあって、あなたもメーリングリストに入れておくね」と言われて。リストに入ったとたん、チームに関するメールやイベントのお誘いなどが山のように届きました。

 

青木佐知
ヒューストン・アストロズ時代、「Chick-fil-A」というファストフードチェーンのキャラクター「Eat Mor Chikin Cow」と一緒に

子育て中のうえ、新しい環境に飛び込んだばかりだったので、すぐにメール返信はできなかったのですが、ワイフ会担当の球団関係者の方が個別に連絡をくれてサポートしてくれました。私もイベントにはできる限り参加して、コミュニケーションをとるように心がけました。

 

ワイフ会に参加できたのはとても心強かったです。ミルウォーキーには約2年在籍していましたが、いろんな選手の奥さんと個別に連絡を取って出かけることもありました。現地で家族みたいに親しい人たちができて、すごくいい思い出です。文化の違いを感じることもあり、興味深くもありました。

 

── どんな部分に文化の違いを感じましたか?

 

青木さん:私は夫の体調管理のため栄養バランスを考えた料理を、毎日のように自分で作るようにしていました。だからワイフ会のみんなで試合観戦をしていても、途中で抜けて食事の支度をすることがあったんです。でも、ほかの選手の奥さんからすると「どうしてそんなにご飯ばっかり作っているの?」と不思議だったみたいで。日本だと、「妻が夫のサポートを行う」という考えは受け入れやすいですが、アメリカだともっと合理的なんです。夫の体調管理はプロに任せているから、料理よりもほかのことを重視したいと考える人が多かったです。

 

だから食事も、妻の手作りにこだわる人は少なくて。選手たちの食事をどうするのかというと、メジャーリーグの球団にはクラブハウスといって、選手やコーチが試合前の準備や交流などを行う施設があるんです。そこで用意されている料理を食べている選手が多かったです。家族みんなで食べに行く人たちもいたようです。たしかに調理する手間も省けるから時短になるし、合理的です。 何を優先するかで、行動も変わってくるんだなと感じました。

 

でも、文化や考え方が違っても、それを尊重し合う雰囲気でした。「私が毎日料理をするのは、自分がやりたいからなの」と言うと、「それが日本流なのね」と理解してくれるようになったし、私も合理性を重視する文化もいいなと感じました。