「レンタルなんもしない人」というユニークなサービスで話題になったレンタルさんですが、小学校時代はクラスでいっさいしゃべれなくなったことがあったそう。大人になってから「当時の自分は場面緘黙症だったのでは」と思うようになります。(全2回中の1回)
小学校の入学式後に突然、しゃべれなくなって

── なにもしない人(自分)を有料で貸し出すユニークなサービス「レンタルなんもしない人」で話題になったレンタルさんですが、小学生のころ、場面緘黙症のような症状が出ていたと伺いました。いつ、どのような症状が出たのでしょうか?
レンタルさん:大人になって「場面緘黙症」という言葉を知ってから、「あのときの自分はもしかしたらそうだったのかな?」と思っているのですが、いちばんはじめに症状が出たのは小学校入学式の日でした。入学式が終わって教室に移動し、先生に指定された席に座ったんです。机をくっつけて4、5人くらいの班ができていましたが、みんなは新しい友達と楽しそうにしゃべっているなか、僕は誰かに話しかけられてもまったく反応できなかった記憶があります。
入学してからも1週間くらい誰ともしゃべらなかったので、「この人はしゃべらない人」といったキャラクターで認識されてしまいました。
── 聴覚に異常があるわけではなく、ある特定の場所、この場合は学校で「話しかけられているのがわかっているけど話せないということですよね。喉が詰まるような感じなのでしょうか?
レンタルさん:喉が詰まるというか、考えたことを言葉に発するまで距離がある感じですね。何か聞かれてどう言おうか考えているんですけど、考えたことを言葉にするのが難しくて。相手も子どもだったので、僕が黙って考えているうちに別のことを始めちゃったんだと思います。誰かに会話を振られても、何も反応できませんでした。
── たとえば「今日暑いね」と言われたら?
レンタルさん:無表情で固まったまま、何も言葉を発しなかったと思います。みんなで折り紙を作る時間があって、「できた?」と聞かれても、折り紙で折った鶴を持ったまま下を向いて止まってるとか。何を話しかけても反応しないので、相手にとっては不気味だったんじゃないですかね。みんなとコミュニケーションがうまくとれなかったし、次第に誰も話しかけてこなくなりました。僕に何か用があっても、少し腫れものに触れるような感じで接してきたと思います。
──「なんでしゃべらないの?」と聞かれたことはありますか?
レンタルさん:あります。けれど、自分でも理由はわかりませんでした。入学して1年以上クラスの誰ともしゃべっていなかったので、「ここで僕がしゃべったら注目されてしまうんじゃないか」「この人、どんな声でしゃべるんだろう」って興味を持たれるのもすごく嫌でしたね。
いじめられたことはなかったけれど、僕があまりにも話さないので、あるとき男の子が僕の前にきて「バーカ」と言ってきたんです。僕がどういう反応をするか見たかったみたいですね。
── 何か言い返しましたか?
レンタルさん:やはり反応せずに黙っていました。言われた瞬間は嫌な気持ちになったかもしれないけど、僕はしゃべれないし、「まぁ、いっか」って流したような気がします。
ただ、クラスのなかではいっさい誰とも話しませんでしたが、休み時間になって、クラスが違う幼稚園からの友達とは普通に話せたし、家に帰ると家族ともしゃべっていたんです。自分でも不思議だったんですけど。
── 声を出さないことによって、授業で弊害を感じるようなことはありましたか?
レンタルさん:国語の時間はきつかったですね。ここには別の問題も含まれるかもしれません。もともとクラスでしゃべらないうえに、声がめちゃめちゃ小さかったんです。先生に教科書の音読をするように言われて読むと、声が小さいしハッキリ聞こえないから怒られるんです。先生がみんなに「聞こえた?」と聞き、みんなも「聞こえません」となって、「じゃあ、前に出て読んで」と言われて黒板の前に行ったんです。そこでも頑張って声を出すんですけど「聞こえない」と言われ。
家では、母と一緒に教科書の音読をしながら、声を出す練習をしました。当時は僕も家族も「場面緘黙症」と言う言葉を知らなかったし、今でもなぜ学校など、人が多い場で話せなかったのかわかりません。それでも練習した甲斐あって、音読に関しては少し改善されたんです。僕と同じクラスだった女の子が、街で僕の母とバッタリ会ったらしく、僕、下の名前が「祥司」って言うんですけど「祥司くん、声出せるようになったよ!」と、一生懸命母に伝えてくれたらしいです。