生殖医療に関しては幼稚な知識だった
── 初めての妊婦生活はいかがでしたか?
高畑さん:妊婦さんって幸せが大きいと思っていたけど、私の場合は不安がずっと大きかったです。健診に行くたびに「赤ちゃん生きてますか?」と聞いていました。ただ、健診が進むうちにエコー写真が過去に2回流産したときのものとは明らかに違うのがわかりました。安定期に入ったころから「今度は大丈夫かもしれない」と思えるように。それまでは「あの絶望が今日来るかもしれない」と思うと恐怖だったんです。
── 妊娠中も仕事は通常通りこなしていらっしゃったのですか?
高畑さん:そうですね。ちゃんと育つか不安があったので、周囲にはまだ言えないけれど、頭は妊娠のことでいっぱいという状態でした。また、ホルモン治療の影響でホルモンバランスが崩れ、気分の浮き沈みが激しかったです。顔もパンパンにむくんでいくので、テレビ画面で見る自分の顔が嫌で落ち込むこともありました。
── 当時、旦那さんの様子はどのようでしたか?
高畑さん:夫は「大丈夫だよ」が口ぐせでした。特に何か口出しすることもなく、黙々と治療に協力をしてくれ、送り迎えをしてくれ、行動で支えてくれました。
── 妊娠・出産については不妊治療を経験してみて初めてわかることも多かったんですね。
高畑さん:そうですね。特に妊娠・出産に関しては、若いうちからもっと知らないといけないことだと思います。中高生世代に「性教育」として避妊しなさいと教えるだけじゃなく、子どもが生まれるメカニズムはどんなものか、出産適齢期とは何か、流産というものがどのくらいの確率で、なぜあるのか、妊娠すると母体がどのように変化するのか…「生殖医療」という分野にも視点を落として伝えていくべきなのではないかと思います。そういった教育があれば、子どもを持つ選択肢について結婚してから初めて考えるのではなく、もっと早い段階で意識できるようになるのではないでしょうか。少なくとも私は30代後半まで「避妊しなければ子どもができる」という幼稚な知識しか持たずに来てしまったような気がします。
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不妊治療の結果、2人の子どもに恵まれた高畑さん。「食べすぎが原因の腹痛」と思っていたら実は陣痛で、無痛分娩の予定が急きょ帝王切開になるなど、想像していた出産ではなかったそう。第2子出産後は体調不良から精神的に追い詰められ、泣きながらひとりで子育て支援センターに駆け込んだこともあったそうですが、今年4月から職場復帰を果たし、家事と育児の両立に奮闘しています。
取材・文/富田夏子 写真提供/高畑百合子