38歳で結婚後すぐに妊娠がわかるも、2度の流産を経験したTBSアナウンサー・高畑百合子さん。「体質的に不妊ではない」という思いを抱えながら相当悩んだ末、不妊治療に踏み切ります。当時の思いについて詳しく聞きました。(全3回中の2回)
2回連続流産を経験して心が悲鳴をあげた

── 高校の先輩であり、パラアスリートの夫・堀江航さんと出会って、高畑さんが38歳のときにご結婚されました。お互い子どもがほしいという意思確認はしてあり、結婚後数か月で妊娠が判明したそうですね。
高畑さん:はい。わりとすぐに妊娠して喜んでいたのですが、流産してしまったんです。産院で妊婦検診を受け始めて1か月経ったころ、ちょうど夏休みがとれていたので夫婦で新婚旅行を兼ねてハワイのマウイ島に行く予定でした。渡航は夜の便だったので、午前中に予約をしていた妊婦健診を受けたら「ん?ちょっと待ってくださいね」と医師の顔色が変わって。「胎児の大きさが変わっていないですね」と言われたんです。その言葉の意味がわからないままにさらに詳しく検査した結果「心拍が見えません」と言われました。胎児が子宮内で亡くなってそのまま子宮に留まっている状態、いわゆる稽留(けいりゅう)流産です。妊娠9週という初期ではありましたが、心はすっかりお母さんになっていて、亡くなっているという言葉に頭を石で殴られたような衝撃を受けました。目の前が暗くなって何も見えず、涙が溢れてきて…あまりにも泣くので別室に移されるほどでした。
── それはおつらかったですね…。
高畑さん:夫はハワイ旅行をキャンセルしようと言ったのですが、私は、もし行かなかったら1週間落ち込んだ気持ちで過ごすことになるから行きたいと言いました。旅行に行かなかった自分を想像すると、流産のショックだけを抱えて暗い気持ちで過ごすのが耐えられないと思ったんです。
それで、最初に妊娠判定をしてくれた近所のクリニックにも行って、本当に流産しているか再度、確認してもらい、現実を知ったうえで率直に「1週間ハワイに行けますか?」と聞いたんです。医師の先生の答えは「行けなくはないけれど、もしかしたら胎児が自然排出されてものすごい出血と痛みが伴う可能性もあるよ。それでも大丈夫?」というものでした。「それでも行きたいです」と伝えると、先生は紙おむつと痛み止めを持たせてくれ、それをリュックに詰めてハワイに出発しました。
結局、ハワイでは何事もなく過ごせて、帰国後すぐに手術をしました。もちろんハワイでも「何で赤ちゃん死んじゃったんだろう」ってふとしたときに涙は出るわけです。でも、日本ではない美しい夕陽を眺められる場所で泣ききったことで、「きっとまた赤ちゃんは来てくれる」と気持ちを立て直すことができました。その後の自分には必要な時間で、メンタルを保つための決断だったと思います。
── 思いきった決断でしたね。
高畑さん:それが、私としては思いきったつもりもなくて、このまま日本で流産のつらさと正面から向き合うのが怖くて、そこから逃げたかっただけなんです。落ち込みすぎて精神的に危うくなってしまうことなく、うまく気持ちの切り替えができたので、行ってよかったと今でも思っています。

── 2度目の妊娠も流産だったとラジオで話していらっしゃいました。
高畑さん:半年後にもう一度妊娠できたのですが、一度流産を経験しているので、ハッピーな気持ちよりは怖さが勝ってしまいました。毎回妊婦健診が恐怖で、胎嚢が小さめだと言われればネットで胎嚢のサイズ情報を調べまくっていました。ある時、外出先で下着にスッと血がついているのを見つけました。翌日病院に行って検査をしたところ、赤ちゃんが動いていないと言われて11週目で流産が発覚しました。
── 2回連続となると、精神的にかなりこたえますよね。
高畑さん:そうですね。子どもを持つ人生はもう無理なんじゃないかと思いました。夫も気にして、知り合いのご夫妻から最新の不妊治療についての情報を得て「いいクリニックがあるらしい」という話をしてくれたのですが、私自身がどうしても不妊治療に抵抗があるというか、自分とはかけ離れた世界の話だという認識が抜けなかったんです。
自分は流産はしたものの妊娠経験はあるので「不妊」ではないという変な思い込みを持ってしまい、素直に不妊治療を受けられなくて。なので自分なりに時期を調べてタイミングを見計らって「なんとしても、もう1度自然に妊娠する!」という「妊活脳」モードにスイッチが入ってしまい、どんどんストイックになっていきました。
── 不妊治療には葛藤もあったそうですが、受けることにしたのはなぜですか?
高畑さん:毎月生理が来るたびに「今回もダメだった」「今月もダメだった」と落ち込むことが半年続き…。「あ、これはもうひとりで抱えきれない」と心が悲鳴をあげました。その時点で不妊治療については何の知識もなかったのですが、とりあえずネット検索でたまたま目に入った近所の不妊治療専門のクリニックを予約しました。詳しく調べず勢いのまま予約したあとで、夫が知り合いからすすめられていた不妊治療のクリニックがあることを思い出し、その先生のところへ行くほうが夫も協力しやすいのではないかと気づいて。改めて紹介をお願いしました。いま思えばその選択が、その後のスムーズな治療につながったと感じています。