重度知的障がいを伴う自閉スペクトラム症の娘、ゆいなさんの育児の様子を配信している蓬郷(とまごう)由希絵さん。自身の絶望を感じた子育て経験をもとに、全国各地の講演会へ行き、おもしろいメイクをするなどユーモアを交えながら、育児がしんどい人に向けてメッセージを伝え続けています。(全3回中の3回)

「感動の涙」を知らない娘の行動に「いいね」

姉のここなさんと登校する小3のゆいなさん

── 重度知的障がいを伴う自閉症スペクトラム症のゆいなさんとの日常を、インスタグラムでユーモアたっぷりに発信し、現在のフォロワー数は18万人を越えています。SNSでの発信を始めた理由について教えてください。

 

蓬郷さん:Instagramを始めるきっかけになったのは、ゆいなの姉、ここなとの対話がきっかけでした。小学4年生からバスケを続けているここなには、つね日ごろから「継続して頑張れば力がついていくからね」と話していました。私も学生時代にバスケに打ち込んでいたため「継続が力になる」ということを実感していて、そのことを、子どもたちに伝えていたんです。ここなが中学生になったころ、同じように「続けることが大切」という話をしたとき、「私は毎日頑張っていることがあるだろうか」とふと立ち返りました。

 

ゆいなの障がいに気づいたばかりのころは、「どうしたらこの子を育てられるのだろうか」と頭を抱え、家事と育児でいっぱいいっぱいでした。でも、ゆいなの成長に伴い、育児が少しずつ落ち着いてきたこともあり、今の自分を見つめる余裕が生まれたんだと思います。そして、そのときの私には継続して頑張れていることが「ない」と感じたんです。

 

同時に「何かを始めるなら、これまでの育児を活かしたい」とも考え、2022年からInstagramでの発信を始めることに。ゆいなとの日常を配信しつつ、育児の大変さに悩んでいるお母さんに向けて「悩んでいてもしかたない。一つひとつ解決していこう」というメッセージを伝えたいと考えたんです。

 

── 反響はいかがでしたか?

 

蓬郷さん:初めのうちは、ライブ配信をしても視聴者は3、4人程度で「もはやグループ通話だね!」なんて話していたんです(笑)。それでも「毎日続けること」が大切だと感じていましたし、続けることの大変さを子どもたちと共有したいと考えて、配信を続けました。

 

── 注目を集めるきっかけとなった出来事があったのでしょうか?

 

蓬郷さん:2022年8月ごろに投稿した動画がきっかけになりました。その投稿では、テレビ番組に感動して泣いている父親(夫)を、不思議そうに見つめるゆいなの様子が映っていました。当時のゆいなは小学5年生。「悲しい涙」は知っていましたが、「感動の涙」はまだ知らなかったんです。父の顔を不思議そうにのぞき込んだ後、背中をさすってあげている様子に、「純粋な優しさに感動した」などのコメントとともに、たくさんの「いいね」がつき、以降、フォロワーがどんどん増えていきました。