『牡丹と薔薇』で強烈キャラを演じて視界が開ける

── 27歳のときに昼ドラ『牡丹と薔薇』に出演。数奇な運命に翻弄され、姉をいびり倒す香世役を演じ、ボタバラブームを巻き起こしました。

 

小沢さん:「すごい意地悪役だけど、どうする?」と、事務所の社長から打診されましたが、「ぜひやりたいです!」と答えました。舞台で演じる手応えを掴み、今まで演じたことのないエキセントリックな役にも挑戦してみたい、という気持ちが高まっていたときでした。ただ、たしかにすごい役でしたね(笑)。台本のインパクトがすごくて、現場で役者さん同士「このセリフを言うのか…」なんて、よく言い合ってました。

 

全60話のうち、じつは私の登場シーンは3分の1程度の20数話。もっとたくさん出ていたような気がする、とよく言われます。私の出番が強烈なシーンばかりだからかもしれませんね。

 

── 強烈なキャラクターを演じるうえで、苦労はありましたか?

 

小沢さん:監督から「テンション上げて!」と、ひたすら言われ続けました。自分ではテンションを上げているつもりでも、つねに「もっともっと」でしたね。強烈な役だったので、演じるうえでどうしてもひるんでしまいそうになるんです。でも、本番直前に監督がそばに来て「もっとね、もっといけるよ」と言ってくれたことで、遠慮なく演じることができた気がします。そうしたらあるとき「もっと」と、言われなくなったんです。それが、監督の想像を超えた瞬間だったのかもしれません。

 

──「役立たずのブタ!」をはじめ、ドラマから数々の名セリフが生まれています。

 

小沢さん:「役立たずのブタ!」は私のキャッチフレーズみたいになってしまって、もう何度このセリフを言ったでしょうか(笑)。いまだにバラエティ番組などに出るたびに、このフレーズを言ってくださいと言われます。たしかに「役立たずのブタ!」はいちばん強烈でしたけど、台本には、ほかにも名セリフがあって。たとえば「パパ嫌、パパイヤよ」とか、私自身はむしろそういうマニアックなセリフが好きで、印象に残っています。

 

共演者のみなさんもそれぞれお気に入りのセリフがあって、撮影現場で久しぶりに会うと「あのセリフはすごかったよね」「自分はこのセリフが好き」と、よく盛り上がっています(笑)。

 

『牡丹と薔薇』は自分のいろいろな引き出しを開けてくれた作品です。私にとっては転機で、デビュー以来ずっと抱えていた仕事に対する悩みも、そこでようやくなくなりました。それまではずっとどこかで「自分はこれで大丈夫かな?」と、俳優業に100%の自信を持てずにいたんです。でも『牡丹と薔薇』以降は、ちょっと霧が晴れた気分でした。俳優としてひとつの新たなスタートでした。

 

小沢真珠
成人式に華やかな着物姿で記念写真

──『牡丹と薔薇』をきっかけに、強烈な役を多く演じるようになりました。

 

小沢さん:『牡丹と薔薇』が終わったとき、ベテランの俳優さんから「ここからまた悩むときが来るからね」と言われました。たぶんその俳優さんは、ご自身の経験からそうなることがわかっていたんでしょうね。でも、当時の私はそれがわからなくて、「こんなに楽しいのに、なんでそんなこと言うんだろう?」って思っていました。

 

ベテラン俳優さんの言葉の意味に気づいたのは、『牡丹と薔薇』の3、4年後だったと思います。『牡丹と薔薇』と同じような役を求められることが多くなり、次第にそれを楽しめなくなっている自分がいたからです。こういうイメージだけじゃないのに、もっと違うイメージの役もやってみたい、新たな役に挑戦したい、という欲を自分のなかで持ち始めたのかもしれません。とはいえ、強烈な役が自分の得意分野になったのは事実です。ふつうの役の難しさが自分の新たな壁として出てきて、だから、今後も「役に対する悩みが解消されることはないし、芝居に答えはないんだな」って思います。

 

── これまでとはまったく違う、清純な役のオファーが来たらどうされますか?

 

小沢さん:何でもチャレンジだと思うので、オファーが来たらどんな役でもまず断ることはありません。たとえば、演じたことのない清純な役をやってみたい気持ちもあります。ただ、ここまで清純じゃない役をやりすぎて、できるかどうかというと、すごく大変そうだなとは思っていて。もしオファーが来たら、かなりの覚悟で挑むことになりそうです(笑)。

 

 

俳優として実力不足を痛感するも、『牡丹と薔薇』以降は演技に手応えを感じた小沢真珠さんは、キャリアを重ねていきます。その後、私生活で出産・子育てをするなか、強烈な役やセリフを求められることに葛藤する瞬間もあったそうです。

 

取材・文/小野寺悦子 写真提供/ボックスコーポレーション