マサイ族の夫から見た日本
── 夫のジャクソンさんが日本を訪れることもあるそうですね。
永松さん:およそ2年おきのペースで、夫はこれまで8回、日本に来たことがあります。夫から見た日本はおもしろいですよ。たとえば、街でカートに乗って散歩する犬を見かけたとします。「日本の犬は歩かなくてもいいんだよ」と声をかけたら、夫は不思議そうに「日本での犬の役割はなに?」と私に聞くんです。

わが家もマサイ族の村で犬を飼っていますが、役割は完全に番犬なんです。家畜を守るためにうちの犬は寝ずに働いています。夫の質問の答えを私が「う〜ん、そうね」と考えていたら、夫は「それってかわいいってことかな」と言いました。もちろん、仕事としての役割を担っている犬も日本にいますが、ペットとして飼われている犬の役割はそういうことかもしれませんね。
── 視点がおもしろいです!
永松さん:そのあと、夫がどう答えるかなと思って、「日本の犬は首輪で紐に繋がれていて、自由に走り回れないのよ。うちの犬とどっちが幸せだと思う?」と聞いてみました。すると夫は少し考えて、「うちの犬は自由に走り回れるけど、満足に食事はもらっていない。日本の犬に走り回る自由はないけど、きっとお腹はいつも満たされていると思う。場所が変わるとそれぞれ違う事情があるんだから、どっちが幸せかって単純にはいえないよね」って。
── お見事です。
永松さん:夫はいつもこんな感じで、「こういうところがおかしい」とか、物事の批判をしたことがないんですよ。「国が変われば、事情が変わってくるんだから、それを何も知らない僕が批判することはできない」って。日常でついつい、文句を言いたくなることってありますよね。いつも夫の姿勢を見習わなくちゃいけないなと感じます。
── 日本に夫婦でいらっしゃる際は、どんなことをしているんですか。
永松さん:夫と講演会をさせてもらうことが多いです。それに、夫も日本からいろいろ学ぶことがあるので、スタディーツアーのような感じで来日しています。日本の高齢化の問題も、今後先進国に近づくにつれて多くの国が抱える問題になってくると思うので、夫は社会問題について、熱心に学んでいます。夫婦でお互いの文化や課題について知るのは楽しいですし、それを多くの日本の方に知ってもらえるのも、私にとって大きなやりがいとなっています。
取材・文/内橋明日香 写真提供/永松真紀