「平均月収300ドル」貯金を切り崩す現実
── ジャガーズでの6シーズンは試練の連続でもあったと思います。ビザをはじめ、チアリーダーとしての活動を継続するために大変なことも多かったのではないでしょうか。
本田さん:アメリカで活動するために取得する「O-1ビザ」では原則的に就業できないんです。チアリーダー、ダンサー関連の活動しか許されていません。しかもチームで得られる収入はわずか。時給でいえば12~15ドル程度。多いときでも月に1000ドル程度で、シーズンオフの1~4月は収入はほぼ0なので、平均すると300〜400ドルくらい。いろんな人に助けを借りてなんとかここまで来られていますが、日本で働いていた時代の貯金を切り崩しながらの生活で金銭的には厳しいのが現状ですね。
それなのに2年目以降のベテランになっても毎年オーディションを受けて合格しなければならず、合格の保証もありません。ベテランになっても落ちることもある厳しい世界なんです。チームはビザにサインはしてくれても費用を負担してくれるわけではないので、高額なビザ費用はすべて自己負担です。ビザ取得は本当に大変で苦労してきました。
── 今季は屋内アメフトのプロリーグ、インドアア・フットボールに加盟するシャークスのチアリーダーとして活動されています。
本田さん:チームの規約でジャガーズでの活動は5年がリミットと決まっていて、それ以上はチアリーダーとして活動することができないんです。2020年はコロナ禍のためフィールドで踊ることができなかったのでノーカウントとなり、私は6年間ジャガーズでチアをすることができました。
私は2023年に乳がんと診断され、ジャガーズの活動終了後に治療をしたのですが、シャークスのオーディションにチャレンジしたのは、治療から復帰してフィールドに戻ると宣言したことを有限実行したいという気持ちが大きかったです。大好きなチアを続けることでがんサバイバーとして前向きな気持ちとモチベーションをキープして前に進みたいということも大きな理由ですね。
手術、治療から1年たらずで合格し、チアのフィールドに復帰できて本当に嬉しく、幸せです。違うチーム、違う環境で戸惑うことや上手くいかないこともありますが、新しい学びを楽しみながら、命ある喜びを噛み締めています。もちろんビザの問題も少なからずあります。「O-1ビザ」を取得している限りはチアの活動をしていないのは好ましくないというアドバイスもあって、シャークスのオーディションを受けたんです。ただシャークスは7月にシーズンが終了するので次のことも考えなければいけなくて。
── すでに次のオーディションも視野に入っているんですね。
本田さん:実は、30回の放射線治療が終了した直後にMLBのオーディションに挑戦したのですが、そのときはすべて不合格。万全ではない体でチャレンジしましたが、やはり心に体が追いついていない状態では厳しいものがあり、この現状に悲しく残念な気持ちになりました。でも野球はもう1度チャレンジしたいなと思っていますし、シャークスでも、もう1シーズンチアを続けられたらと思っています。
それでも、チアの「笑顔の連鎖」が好きだから

── ビザ問題などいろいろ大変なことがあったと思いますが、アメリカで暮らして7年ほど経過しました。将来的にアメリカと日本、どちらを拠点にしたいと考えているのでしょうか。
本田さん:いずれ日本に帰国したいとは思っていますが、まだアメリカで挑戦したいという気持ちがあります。日本には家族や心を開いて話せる友だちもいるので帰国すればもっと楽でいられるのかもしれません。アメリカにいれば人と話すのも、病院に行くのもすべてにハードルがあるし頑張らないといけない。それでも日本にいたほうがストレスやプレッシャー、頑張らないといけないという責任感が重いような気がするんです。日本にいるときはそういうものをずっと背負っていて、すごく窮屈さを私は感じていたような気がします。
性格的にはアメリカが合っているかなと感じています。こちらのほうが前向きでいられる気がするんです。すごく頑張っている人をほめるというか、ポジティブな声掛けをしてくれる。それが、頑張ろうというモチベーションや原動力になるんです。もちろん会社に属して働いているわけではないので、まだ見えていない部分や人間関係はあると思うのですが、それはどこの国でも絶対あるものだと思いますから。
── 本田さんが日ごろから大切にしていることはどんなことですか。
本田さん:闘病中も大切にしていたのはつらいときもできるだけ笑顔でいることでした。試合中もチアが笑顔だと観客も笑顔になるんです。そしてまた自分も元気をもらって笑顔でいられる。これってまさに笑顔の連鎖だと思うんです。私がチアを続けているのはそれが好きだからでもあります。だから子どもたちに指導するときも「チアでいちばん大切なのは笑顔だよ」と教えているんです。治療中も笑顔でいられたのはずっとチアをやってきたからこそだし、つらい治療も前向きに乗り越えられたのはチアでの学びが大きかったからだと思っています。
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ジャガーズのチアリーダー「ザ・ロアー」として順調にキャリアを積み重ねてきた本田さんですが、同チーム集大成の6シーズン目に乳がんを患い、人知れず死への恐怖や不安と戦っていました。その経験があるからこそ、一度きりの人生を後悔がないように、そして頑張りすぎないように過ごしていきたいと語ってくれました。
取材・文/石井宏美 写真提供/本田景子