私が死んだらどうする?
── ダウン症を持つ翔子さんの母親としての40年間の日々を振り返って、今の泰子さんが感じていることを教えてください。
金澤さん:翔子がダウン症で生まれてきてくれてよかった、普通の子だったらこんなにも幸せになれなかった。82歳になった今、私は心からそう思っています。今の私にとっていちばん大切な時間は、翔子と2人で散歩をしているときなんですね。以前に散歩をしながら「翔子ちゃん、お母さまもいつか死んじゃうよ。死んじゃったらどうする?」と一度聞いたことがあるんです。そしたら翔子は、「じゃあ毎日の散歩はどうすればいいの?」って。親の死後にどうやって生きていくとかの不安や悲しみは、彼女にはきっとないんでしょうね。本心のところまではわからないけれども、翔子は今だけを生きているのでしょう。
だからこそ、残された時間を一緒に過ごすことで、翔子に「私は母親に愛されたんだ」という思いをしっかり伝えていけたらと願っています。
取材・文/阿部花恵 写真提供/金澤泰子・ND CHOW