夢の実現は必ずしも幸せではないけれど…

── 長男の秋川風雅さんはピアニストとしてCDデビューされ、長女も音楽の道を志しているそうですね。おふたりとも現在、大学生だそうですが、お子さんの今後をどう応援していきたいですか。

 

秋川さん:実は長女もオペラ歌手になりたいと言っていて、子どもたちはふたりとも、音楽家としての夢を持っています。もちろん、応援やアドバイスをしながらも「音楽家になることだけが人生ではない」ということを伝えるようにしています。やっぱり音楽をはじめとする芸の道で生きていける人は本当にひと握りで、なれる保証はありません。どんな仕事をしてもいいと思うのですが、いちばんは「幸せな人生を歩んでほしい」ということに尽きますね。

 

秋川雅史さん
テノール歌手として美しい歌声を届ける秋川さん

── ご自身と同じ音楽の道を目指すことに関して、どんな思いがありますか。

 

秋川さん:厳しさもやりがいも知っているので、心配と楽しみな気持ちと半々です。夢を実現してくれたらもちろんうれしいのですが、そうではない可能性もあるということがわかっているので複雑です。そういう私も二十歳くらいのころは、夢が実現する未来だけを考えていて…。それが当然だとさえと思っていました。夢が叶わない可能性が同じくらいあったというのは、あとになって気づきました。みなさんに知っていただく機会になった、『千の風になって』という曲に出合えたのも、たくさんの運が重なってのことです。

 

私は歌手として仕事をさせていただくことが幸せだと感じていますが、夢が実現することが、必ずしも幸せとは限らず、不幸せになる場合ももちろんあると思います。夢に向かって全力で取り組んだことは、決して叶わなくてもムダにはならないと思っていますが、親としては、幸せな人生を子どもたちが歩むにはどうしたらいいかをイメージしていけたらいいなと思っています。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/秋川雅史