うんちまみれのカーテンを見て「とっとと…」

── 育児と違って成長したらオムツが取れるわけでもないですし、先が見通せないからつらいですよね。
春さん:だんだんパニックになってきて、円形脱毛症ができてしまいました。一度、カッと頭に血が上って、父にひどいことを言ってしまったんです。父は便秘症だったので、ときどき動かせる左手でおしりを刺激して便を出すんです。その便がついた左手をカーテンで拭くのでカーテンがうんちまみれになっていて…。睡眠不足で疲れている状態でそのカーテンを見たときに、思わず「とっとと死ね!」と言ってしまったんです。あれは言ってはいけない言葉だったと今でも思い出します。
── 介護疲れでつらい状況だったのですね。介護サービスは利用されましたか?
春さん:デイサービスをときどき利用していました。デイサービスは9時から4時まで預かってくれます。息抜きのために趣味のゴルフに行って帰ってくるにはちょうどいい時間でした。が、介護が始まるまではゴルフ帰りにスーパー銭湯のような大きなお風呂に入るのが楽しみで、それがなくなってしまったことが地味にストレスでしたね。
ご近所さんがそのことに気づいてくれて、「ゴルフの後、お風呂行っておいでよ。お父さんはお迎えしておいてあげるから」と、ときどきゴルフに送り出してくれたのは、すごくありがたかったです。
友だちも私の様子を気にして「そんなにストレスを溜めていたら、あなたが倒れてしまうし介護が続かないよ」「ちょっとは外に出たほうがいいよ」と声をかけてくれて、食事会などの集まりに連れ出してくれました。友だちとの食事会は以前であれば、難波や梅田といった繁華街まで出ていたのですが、介護期間中は私の家の近くのお店を選び、何かあればすぐに帰って対応できるようにしてくれていたので助かりました。
── 近所の方やお友だちのおかげで少し息抜きができたのですね。
春さん:そうなんです。結局ダブル介護は約8年間続いたのですが、何よりよかったのは親身になってくれるケアマネージャーさんと出会えたことです。
ケアマネさんの言葉で「人に頼っていいんだ」と

── ケアマネージャーさんはどんな対応だったのですか?
春さん:介護される側のケアはもちろんのこと、介護する側のことも常に気にかけてくれました。一度「やすこさん、いまいちばん何がしたいですか?」と聞かれたとき、ちょうど娘が大学を卒業する時期だったので「娘と旅行に行きたいけど無理やろうね」と返事をしたら「行ってきてください!」と。相談すると、わが家は行政の「介護ポイント(介護保険制度を活用したボランティアポイント制度)」をうまく使えていない状況だったことがわかり「余っている介護ポイントを利用してお泊りデイサービスを使ったらいいですよ」とアドバイスしてくれました。
── 介護保険におけるポイント制度は要介護度に応じて付与され、さまざまなサービスや商品と交換できるんですよね。
春さん:そうです。そのケアマネさんの言葉で、私はものすごく気がラクになったんです。それまでの私は、介護ポイントをすべて使ってまで人に頼ってはいけない、自分の親だから自分で何とかしないといけない、という考えだったのですが、「できるだけ人を頼っていいんだ」という発想になれたのはケアマネさんのおかげです。そこから、ポイントをうまく使いきれるように計算して利用するようになりました。