両親に紹介するも心配が勝って…

久下真以子、羽賀理之
2023年、結婚式の前撮り写真

── 羽賀理之選手とは2年の同棲期間を経て、2021年に結婚されました。互いのご両親に相手を紹介したときの様子はいかがでしたか?

 

久下さん:私の両親は、最初は驚いていました。夫に対してということではなく、障がい者と結婚することに対してですね。未知からくる心配というか、車いすで生活する方が身近にいないからよくわからないうえ、アスリートの引退後の生活はどうなるんだといった、将来に対する漠然とした不安を抱いたようです。

 

また、実家の前の急な坂道を、私が車いすを押しながら移動しているのを見て、日常的に介助をしているかのように思ったそうです。介助は、よほどの坂道や悪道ではない限り必要ないですし、普段は自分で手動の車いすを動かしていると言っても信じてもらえなくて。日常生活に介助は必要ない、会社員だから引退しても家族の生活に影響が出るわけではない、ということをていねいに説明しました。

 

その後、東京パラリンピックに向けて車いすラグビーが盛り上がって夫がテレビに映る機会も増え「この人が娘の夫になるんだな」という理解を深めていったようです。東京パラリンピックで車いすラグビー日本代表が銅メダルを獲得したときはとても喜んでくれて「娘の夫がメダリストなんです」と周囲に自慢していたそうなので、意識がずいぶん変わりました。

 

── 旦那さんのご両親はどうでしたか?

 

久下さん:すごく喜んでくれました。夫の母は、夫が専門学生のころに交通事故にあったときのことを思い出したみたいで「車いす生活になった息子が結婚できるなんて思ってなかった」と言って泣いていました。

 

── 結婚の決め手は何だったのですか?

 

久下さん:つき合うときから「たぶんこの人と結婚するんだろうな」とは思っていました。20代の若いころは、お金持ちと結婚したいとか、男の人にグイグイとリードされたいとか、いかに「与えてもらうか」ということを考えていた気がしますが(笑)。夫とは何もしゃべらなくても心地いいし、たとえふたりに困難が降りかかったとしても何とかなるだろう、この人となら乗り越えられるだろう、という気持ちになれたんですよね。

 

結婚式であいさつをしてくれた友人の言葉が私たちの関係をよく表しています。「はたから見れば、健常者が障がい者を支えるカップルに見えるかもしれないけれど、メンタル的には真以子ちゃんのほうが支えられているんですよ」と。本当にその通りだと思います。

 

 

2年間の同棲を経て結婚を果たした久下さん。結婚当初から子どもについては夫婦で話し合っており、体外授精の末にお子さんを授かります。妊娠中は順調だったそうですが、胎児はなんと36週ですでに3200gを超えると推定され、37週で計画無痛分娩をすることになるも、15時間踏ん張っても子宮口が3cm弱しか開かず結局、翌日帝王切開で手術することに。予想外の連続でしたが、今は夫婦で協力しながら育児を楽しんでいるそうです。


取材・文/富田夏子 写真提供/久下真以子