バンド経験で培ったものが受験で役立った

── バンド時代の経験が、社労士受験でプラスになったと感じることはありますか?

 

山中さん: 社労士受験では、2つの点がとくに役に立ちました。1つ目は継続力です。ドラムの演奏は、練習を重ねてリズムを身体に染み込ませる作業の連続。複雑なフレーズを何度も反復してマスターする感覚は、法律の条文や難しい理論を覚えるときにすごく役立ちました。社労士試験は出題範囲が広いため、最初は圧倒されましたが、「地道にコツコツ積み上げる」というバンド時代のクセに支えられました。

 

山中綾華
現在も様々なバンドのライブでドラムサポートをする山中さん

2つ目はプレッシャーへの耐性です。プロのミュージシャンはライブやリハーサルなど、どんな状況でもミスなく演奏することが求められますが、それでも予想外のトラブルは起きます。ささいなものから機材トラブルなどの大きなものまでたくさんありますが、どのような環境でも冷静さを保つ力が、試験勉強のプレッシャーや本番の緊張感を乗り越えるのに役立ちました。試験直前はあせりもある中、「本番はいつも通りやれば、大丈夫」と自分を落ち着かせられたのは、バンド経験のおかげです。
 

── プロとして数々のステージを経験し、精神力もきたえられたのですね。勉強以外にも、バンド時代の経験が人生に影響を与えた点はありますか?

 

山中さん: 自分自身が、柔軟になれたことですね。正直、理不尽なできごとやつらい時期もありました。でも、その経験を「耐えた」ととらえず、その経験がどんな環境でも自分の目標を見失わず進む強さを育ててくれた、といまでは考えています。バンドでの時間は私にとって音楽だけでなく、人間としての成長の機会でもありました。そのすべてが、いまの自分を支える土台になっています。

 

 

難関資格の社会保険労務士に合格を果たした山中さん。現在は、社労士事務所に勤めながら、 兼業でドラマーとしても活動を続けています。2つの職業を継続するのは、はたから見れば大変そうですが、気分が切り替えられるなど、相乗効果もある様子。二刀流の仕事が肌にあい、充実したときを過ごしているそうです。

 

PROFILE 山中綾華さん

やまなか・あやか。高校生からドラムを始め、所属事務所内で結成されたバンドに加入。2015年にはメジャー・デビュー。ライブハウスから代々木第一体育館まで駆け抜け脱退。2023年、社会保険労務士試験に合格。ドラマー兼社労士の二刀流を目指して活躍中。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/山中綾華