今、自分にできることを精一杯

鈴木美穂
友人の結婚式で山下弘子さんと

── 現在はどのような活動をされているのですか?

 

鈴木さん:「自分にしかできない仕事」はこれまでの私の経験を最大限活かすことだと思って、さまざまな活動をしています。マギーズ東京には週に一度訪れて、全国からいらっしゃる利用者のご相談に立ち合うなどしています。そして、みなさんのお話からみえてきた課題をどのように解決するか考え、さまざまな方と組んで取り組みを展開しています。

 

たとえば日本の乳がん検診率は、クーポンを配っても非常に低いんです。マンモグラフィーは検査の際に痛みがあるからと敬遠する女性も多く、乳房の状態によってはがんが見つけづらいことがあります。エコーは痛くないけれど読影する医師や技師の腕によって精度が異なるという課題も。それを解決するために、現在は「Smart Opinion」というAIを活用した乳がん検診事業にも携わっています。エコー検査の結果を人の目とAIで「ダブル読影」するもので、これが普及できれば、簡単で、診断ミスも少なく、精度の高い検診をたくさんの人に受けてもらえるようになると考えています。

 

── マギーズ東京を作ってよかったと思う瞬間を教えてください。

 

鈴木さん:ここは私だけでなく、多くの仲間と共に作った場所。「人生が変わった、ありがとう」と言っていただけることが何よりうれしいです。

 

実は、いろいろなことを発信するのが怖い時期があったんです。私は幸運にも乳がん発症から10年以上経ち、現在は元気に暮らしています。しかし、すべての人がそういうわけでは決してありません。私が発信することや活動していることを知って、自分はそうではないと比べて悲しまれる方がいるのではないかと。でも、私の活動に救われたと言ってくれる人がいて、周りに助けてくれる仲間がいる限り、やれることはやろうと今は思っています。

 

── 今後の展望などはありますか?

 

鈴木さん:マギーズ東京を継続、発展させていくのはもちろんですが、ここで学んできたことを伝え、感じてきた課題を解決していくことにも力を入れていきたいなと。たくさんの方々と協力し合い、全国どこでがんになっても、必要なときに必要なサポートが届く社会を作っていきたいです。 

 

 

24歳で乳がんが発覚した際、死ぬ前にしたい5つの夢が思い浮かんだという鈴木さん。「マギーズ東京」の開所も「自分にしかできない仕事」というその夢のひとつでした。その後、現在の夫と出会い、「結婚」「出産」「世界一周」「親孝行」と次々に夢を実現。今後は世界一周での経験も活かし、がんという領域以外にも、さまざまな課題に直面している人に優しい社会づくりをしたいと新たな夢を語ってくれました。

 

取材・文/酒井明子 写真提供/鈴木美穂