医師として後遺症に立ち向かい見つけた「脳にいいこと」

── 実際、後遺症にはどのように向き合っていったのでしょうか?

 

平井さん:「自分のことは自分で動かないと何も解決しない」と思い、自分の医学知識や経験、ネットワークを総動員して「脳のコンディションを整える」エビデンスを、自分で集めることにしました。

 

── ものすごいガッツです(笑)。どのようにしてエビデンスを集めていったんですか?

 

平井さん:まずは少しでも似ている病気の論文を読みあさりました。「こういった後遺症はどういうときに起きるのか」「それをどういうふうにしていけばいいのか」「そもそも脳がいい状態とは何なのか」という論文です。同様の治療を行った世界中の医師や患者へのインタビューも行いました。それらをまとめて「脳のコンディションを整える」100個ほどのエビデンスをリスト化し、1年間かけて自分の身体を実験台にして取り組んだんです。

 

── 具体的にはどんなことを?

 

平井さん:緑のある場所を散歩したりランニングしたりする、新しいコミュニティに入ってみる、普段読まない分野の本を買う…など、本当にいろんなことを試したんですが、「身体を動かす頻度を増やすこと」は脳にとってかなり重要だとわかりました。脳腫瘍になる前も動いていなかったわけではないですが、週末にまとめてジムに行くという動き方で、実はそれではあまり意味がないということがわかったんです。日常の中で身体をたくさん動かすということは、脳にとってもすごく効果を実感できました。

 

脳腫瘍を患って以降、有酸素運動の一環でジョギングを取り入れている

── オフィスワークをしていると、こまめに身体を動かすのは難しくないでしょうか?

 

平井さん:どうすれば仕事中に運動を取り入れられるかどうか考えて実践しました。たとえば、在宅勤務中は仕事の合間に5分程度、ボリウッドダンスやズンバなどの手の動きを含むダンスの動画を見ながら踊ります。使用する机もスタンディングデスクに替え、1日9時間以上は立っているようにしました。

 

── それらが脳腫瘍の後遺症改善に役だったんですか?

 

平井さん:どれも科学的エビデンスに基づく取り組みなので、実際にやってみて、後遺症改善だけでなく罹患前よりもパワーアップしたと感じています。

 

── 平井さんが実践したことは、脳腫瘍の患者でなくてもやったほうがいいのでしょうか?

 

平井さん:そうですね、脳の病気に関係する人だけでなく、ベストパフォーマンスを実現したいすべての人に役立つものです。いろいろと調べるうち、脳腫瘍の後遺症として私が体験したことは「加齢やストレスによる脳の劣化の早送り体験だ」と気づきました。脳腫瘍で治療をすると、頭を切る、放射線で焼く、薬で治療する…という何かしらの大きなストレスを脳にかけるわけです。加齢や精神的疲労でも脳にストレスはかかりますが、そうしたストレスを早送りしたのが、脳腫瘍の治療だったという解釈です。つまり、脳にストレスを与えるようなことを長年していけば、私が経験した後遺症と同じようなことがそのうち起きる可能性があると考えています。