親は子どもに対して「日々精一杯」ならOKだと思う
── 坂田さんはこれまで多くの親子と触れ合ってきましたが、子どもにとって「親」はどんな存在だと思いますか?
坂田さん:なくてはならないものですよね。だけど、「必ず父母がそろっていなければ」ということでもない。ひとり親でも、子どもはちゃんと育つしね。それに、子どもの愛し方は人によって違うかもしれないけど、愛する気持ちには親の人数や男女差はないと思います。だから、親は子どもにとって「自分をほわっと包んでくれる、なにか強力なもの」じゃないのかな。神さまとは言わないけど、子どもの中心にあるべきもの、というか。
でも、親だって人間だから、どうしても感情が揺れるじゃないですか。だからそのときどき、自分なりの精一杯で子どもを愛すればいいんじゃないのかな。

── 精一杯、ですか。
坂田さん:それに尽きると思う。精一杯愛したり、ときには精一杯守ったり、怒ったり。とにかく、そのときの自分ができる範囲でやるしかないですよね。僕もそんなに偉そうなことを言える子育てはしてこなかったし、今お話しした通り、自分を振り返ると反省しきり。だから「親とはこうあるべき」とかは全然ないんです。僕でもやってこれたんだから「今、子育て中の人もなんとかなるよ、大丈夫だよ」という気持ちです。
── そう言われると、気持ちが楽になってきます。
坂田さん:そうでしょ。あ、そのためには、ひとつコツがあってね。今すごく大変な状況だとしても「なんとかなる」って思い込むこと。これが大事です。『ちいかわ』で、ハチワレがよく「なんとか、なれー!」と言ってるでしょう。あれ、いいかもなって。
──(笑)。信じることが大事、でしょうか?
坂田さん:そう。大人になると立場や抱えるものはさまざまだけど、時間だけはみんな平等でしょう?毎日本当にいろんなことが起きるけど、いつか必ず終わるし、なんとかなる。子育てでいえば、声のかけ方や接し方を間違うことも当然あるし、いい日と悪い日があると思う。だから、完璧を目指さなくてもいいんじゃないかなって。そもそも、子どもだってなにが100点かわからないんだし。
── たとえば、ごはんのおかずが1品でもOKですかね?
坂田さん:そんな日もあるよ。それに、子どもの環境をすごく立派に整えて、愛情をたっぷり注いだつもりでも、子どもは親の思うようには絶対に育たないもの。僕自身、親の期待を裏切ってミュージシャンになっちゃったし。親ができるのは、いろんなものや考え方を見せて「こんな選択肢もあるかもよ」と教えるぐらいじゃないのかな。「子どもは親を踏み越えていくもの」と思えば、気が楽になるんじゃないかなと思います。
取材・文/前島環夏 写真提供/坂田おさむ