「ヒールやストッキング、窮屈で理不尽なアイテムから解放され」

── 現在49歳だと伺っております。40代を振り返って感じるご自身の変化はありますか。

 

東村さん:今年50歳になるのですが、40代はいろんなものから解放されて、ラクになりました。ファッションでいえば今がいちばんハッピーですね。

 

東村アキコさん
ふるさと宮崎の美味しそうなマンゴーを手にした東村アキコさん

── たとえばどんなことから解放されたのでしょう。

 

東村さん:若いときはやっぱり痩せなきゃという意識があって、よくダイエットをしていました。今振り返ると、食べたいものを我慢するのではなく、好きなものを食べてジョギングとか運動をしたらよかったなって。食べたいものを食べられないってしんどいですよね。

 

あとは、ヒールもやめました。ヒールを履いてひと駅分とか歩いていたなんて…今は絶対に無理(笑)。でも当時は若さゆえの見栄で、どんなにつらいとわかっていても、ヒールを履いて出かけてたんですよ。私が若いころはおしゃれといえばヒールでしたし、いろいろしんどかったなとも思います。最近はスニーカーが流行しているし、おしゃれの幅も広がっていい時代になりましたよね!

 

── おしゃれは我慢、でしたもんね。

 

東村さん:40歳になっていろんなことがラクになったなと思うのは、着物を着るようになったことも大きいです。以前から40代は着物を着る人になろう!と決めていたんですが、本当に実現できてよかった。着物を着ると、いろんなものから解放されるんです。

 

── 着物は着こなしが難しいイメージがあります。

 

東村さん:着物は洋服に比べると高いですし、着付けも慣れるまでは大変ですが、慣れれば「そぎ落とされたおしゃれ」ができて、楽しいです。着物を着るときは、アクセサリー類は基本的にはつけません。したとしてもポイントになる指輪くらい。髪はまとめるので、ロングでOK。多少の伸ばしっぱなしは問題ありません。

 

服装にあわせて、いろんなバッグを持つ必要もありません。足元は草履と足袋さえあればよいので、ストッキングやタイツは履かなくなりました。私はとにかく出掛ける前のストッキングが苦手で。「あ、伝線してる!もう1足あったっけ?」、あれがしんどいんですよね。

 

── 誰もが一度は経験する「あるある」ですね。

 

東村さん:私は漫画家で手を使う職業だからか、指先が荒れていることも多くて。履いた瞬間にひっかかって破れることもしょっちゅうでした。500円で買ったストッキングが、一瞬でパーになる。人生の理不尽ナンバーワンだと思っていました。そういうときに限って買い置きがなくて…。そんな負のループから解放されただけで幸せです。

 

靴下と靴のコーディネートを考えるのも私にとってはハードミッションすぎました。色や形などそれぞれ無限ですよね。それに比べると着物は足袋を何足か持っていればいいので、本当にラクです。私のようなめんどうくさがりやの人にはおすすめです。

 

── そうは言っても、やはり着物は帯の締めつけが苦しいイメージがあります。

 

東村さん:苦しくない着方もあるのですが、やっぱりご飯のときなどは洋服よりは苦しいですよ。でも逆にそれがよくて!たとえば着物でパーティーに出て、そのあと飲みに行っても、苦しいから夜の10時半には帰ってくるんです。着物を着るようになって、深酒をしなくなりました。「早く家に帰って着物を脱ぎたいな」と思うと、日付が変わって帰宅することはまずないですね。健康的だし、経済的だと思います。

 

着物を着るようになる前、例えばワンピースやチュニックを着ている日なんて、もういくらでも飲めるから深夜2時くらいまで飲んでいました。たとえ楽しくても酔っているから次の日には忘れているし、二日酔いで仕事にも影響が出る。深酒して、いいことってあんまりないんですよね。あとは、着物を着ているだけでオシャレなマダムだと思われるのも得です(笑)。ちょっといいお店で、ちょっといい席に通してもらえる気がするし、ジャージを着て行ったときと気持ちも全然違います。心から皆さんに着物をお勧めしたいです。

 

 

2度の離婚経験がある東村さんは、今後について「人生を一緒に歩めるパートナーがいたらいいな」と思っているそうです。50代目前の現在の恋愛観は「もうここまで頑張ってきたから」という心境が影響し、「自分を甘えさせてくれる人、頼れる人なんて新鮮でいいですね」と明かしてくれました 。

 

 取材・文/内橋明日香 写真提供/東村アキコ