「カビラ節」を超えていく
── 40年近くこの仕事を続けているとのことですが、長く仕事を続ける秘訣はありますか。
カビラさん:これはもう現代社会の永遠のテーマですね。仕事が手段なのか目的なのか。ワーク・ライフ・バランスという言葉がありますけど、なんで仕事が先で、ライフがあとなんでしょうね。ライフ・ワーク・バランスであってほしいなと思いますし、仕事が目的になると人生が重くなってしまいます。もっと平たくいえば、仕事を続けるということは「我慢してできますか」というところに行き着いてしまうのかなとも思います。我慢できないならば無理しないほうがもちろんいいと思います。

若い世代の方で退職者が多いと言われていますが、日本社会では、働く人に職務の説明がまだまだできていないと感じています。「あなたに託す仕事はこういう内容です」というのを事前にきちんと説明する文化がまだまだ構築されていない気がするんです。だから会社に入ってから齟齬が生まれてしまうのかなと。会社社会主義みたいなところがあって、営業、企画というように、部の名前さえ伝えていればいいというようなところがありますし、新卒採用のように一括採用で期日が決まっていて、ベルトコンベアに乗ったように粛々と採用試験が進むシステムです。たしかに効率はいいと思います。でも、もっと一人ひとりに目を向けていかないと、ほころびが出てきてしまうのかなと思います。
── カビラさんが仕事をするうえで心がけていることはなんですか。
カビラさん:依頼をくださる相手の方が予想されていることはできて当たり前なので、それを超えたものを提供できるかです。いろんな想像をしてくださって僕に仕事を依頼してくれたのはわかりますし、もう40年近くやっていると、自分の中でストックといいますか、アーカイブみたいなものができてしまっていて。そこに頼ることなく、どんな新しいことができるのかということが求められていると思います。「ここはカビラ節でお願いします!」と言われることはありがたいのですが、カビラ節で終わってしまっては想定内ですよね。そこを超える何かができるよう意識して気をつけています。
── おっしゃる通り、皆さんがカビラさんに求めているイメージというものはたしかにありますね。
カビラさん:ナレーションや司会もそうですが、一本調子になるところを、あえてちょっと変えてみることはありますよ。元気なカビラはみんな知っているので「ここはダークな感じとか、悪いカビラはどうですか(笑)」なんていう提案も楽しみながらしています。ドラマのお仕事をいただくことがあるのですが、普段、声では演じているものの、全身を使って演じるのも貴重でおもしろい経験です。弟の慈英のアドバイスをもらった方がいいなと思っていますよ(笑)。
取材・文/内橋明日香 写真提供/ジョン・カビラ