話題のフィギュア挑戦で教え子の気持ちがわかった

寺本明日香
以前からフィギュアスケートが好きだったという寺本明日香さん

── 多忙な中、今年2月には愛知県フィギュアスケート選手権大会にも出場されました。あくまでも趣味、プライベートの延長戦で楽しんでいるものだとお話しされていましたが、なぜ挑戦しようと思ったのですか。

 

寺本さん:もともとフィギュアスケートが好きで、引退した後にリンクに遊びに行っていたんです。そこでフィギュアスケートをしている友だちにスケートを教えてもらっているうちに、「あの技ができるようになりたい」と思うようになって。体操も種目別ゆかでは音楽にあわせて演技をしますし、そういった面ではフィギュアスケートとの親和性があります。いつの間にか、何かできるんじゃないか、プログラムを作れるんじゃないかと思うようになり、挑戦しました。

 

── 滑ることに対しての恐怖心はありませんでしたか。

 

寺本さん:スキーの経験があったからか恐怖心はなかったですね。むしろ体操選手がどこまでフィギュアスケートができるか、その挑戦自体が興味深かったというか。いろいろな技への挑戦もすでに体操で経験していたからこそ、ポジティブにやれていたのかもしれません。

 

── 愛知県フィギュアスケート選手権大会で実際に演技されたときは緊張しましたか。

 

寺本さん:体操の演技前にいつも感じていた緊張感をひさびさに味わいました。当日はテレビ局や記者の方が取材にいらしていましたが、「シングル(ジャンプ)しか跳べないから申し訳ないな」という気持ちを感じながらも、楽しく滑りきることができました。

 

── 1つのプログラムを完成させた、やりきったという満足感もあったのではないでしょうか。

 

寺本さん:あくまでも趣味の範囲内での挑戦なので努力の量はまったく体操の比にはならないほど少なかったと思いますが、練習の仕方や挑み方、「ここがたりないから補わないといけない」というような思考は体操と一緒でしたね。大会直前は通しの練習を何度も行って体に覚えさせて妥協はなかったです。

 

── フィギュアスケートの挑戦を通して学びや何か感じるものもあったと思いますが、体操に対する考え方に影響を与えたことはありましたか。

 

寺本さん:私が現役のころは、技を失敗したときには人生が終わるというような感覚で演技をしていました。本番を想定して臨む通しの練習をしているときもいつもそういう向き合い方をしていました。ただ、今、私が指導している学生たちはトップレベルからは少し力の差があるので緊張感はあってもそこまで背負ってはいないと思いますし、楽しさを感じながら体操ができていると思います。それはフィギュアスケートに挑戦した私も同じですね。そういった意味で、今指導する学生たちの気持ちを少し理解できた部分もありました。

 

また、フィギュアスケートを教えてもらっているときに、「この教え方いいな」と感じた指導法は体操でも取り入れました。

 

── フィギュアスケートへのチャレンジを通じて、何事も挑戦することの大切さをどのようにとらえていますか。

 

寺本さん:日本代表やトップレベルを目指してスポーツをすることもいいけれど、純粋に競技が好きだから競技を続けたり、大会に出たりするのもスポーツのひとつの楽しみ方ですよね。下手であろうが、失敗しようが、とにかく挑戦できるのがスポーツの醍醐味だし、少しずつでもできるようになる感覚が本来のスポーツの楽しさだと私は思うんです。それをフィギュアスケートの挑戦を通してあらためて感じましたし、みなさんに多少なりとも伝えることができたのではないかなと思っています。

 

── そういった意味では寺本さんが発起人となって昨年からスタートした、女子体操の普及と強化、選手に競技をする場を提供する目的で立ち上げた大会「寺本明日香カップ」も同じことが言えるかもしれませんね。

 

寺本さん:この大会を開催しようと思ったのは、伸びしろのある選手たちがたくさん練習をしてきた成果を発表する場が少ないと感じたことがきっかけでした。第1回大会の参加資格は小学生から社会人の全国大会などを目指す女子の体操選手です。3月には第2回大会も開催しました。第2回大会はまだ試合には出られないような子どもたちも出ているんですが、「出場してモチベーションが高まった」「本格的に体操選手になりたいと思いました」といった声をいただいたんです。今後もそういう子どもたちが少しでも大会に出られるような、モチベーションが上がるような機会をこれからも提供したいと思いますし、毎年やっていくべきだと強く感じていますね。

 

取材・文/石井宏美