日本の体操女子を約10年にわたって牽引し、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロと2度のオリンピックに出場した寺本明日香さん。ウエイトコントロールが求められる現役時代を振り返り、体重制限でいちばん気をつけなければいけないのは「ストレス」と、心のマネジメントの大切さを振り返ります。(全2回中の1回)
体重が増えると「技の安定性が損なわれて」

── 体操競技というと体重が軽いほど有利という印象があります。現役時代に過度な減量を行ったり、体重管理で苦労されたりしたことはありますか。
寺本さん:体重別に階級が分かれているレスリングや柔道のように大会前に計量があるわけではないので過度な減量の経験はありませんでした。所属クラブから食事を制限されたり、体重を毎日チェックたりすることもなかったです。ただ、体操競技は体重が増えて重くなると動きづらくなくなってしまいます。その結果、与えられたメニューをしっかりとこなせず、負荷や難易度の高い技が練習できなくなる。そうならないために1年365日、体重を常にコントロールしていました。
── 体重をコントロールするために、ご自身で普段の食事内容を管理されていたのでしょうか。
寺本さん:高校生のころまでは母が食事やお弁当を作ってくれていたんですが、かなり栄養には気をつかってくれていました。当時、私は白ご飯があまり得意ではなかったので、かわりに野菜のおかずを中心にしてもらっていました。炭水化物はあまり摂っていませんでしたけど、エネルギー切れを感じることはあまりなかったですし、動けないようなこともなかったです。ただ、大学生になると自炊を始めたので、何を食べるのか、どんなものをチョイスするかはかなり注意するようになりました。
── 同世代の選手の栄養に対する知識は当時どれぐらいだったんでしょうか。
寺本さん:知識はあったと思いますけど、みんな普通に食べていて「(体重が)増えたらやばいね」くらいの感覚でした。多少セーブするというような感じだったと思います。
── 体操は柔軟性やバランス、回転能力などが求められる競技だからこそ、体が小さく体重も軽いほうがやはり有利なんでしょうか?
寺本さん:私は引退するまで(体重が)軽いほうが楽だという考えを持っていました。現役中、体重が少し増えてパワーがついたことがあったんですが、体が重いと重心のコントロールが難しくなって、技の安定性が損なわれやすいため、演技がしづらくなるんです。特に段違い平行棒ではそれが顕著にあらわれていました。それが嫌で体重を増やしたくないという思考になっていたんです。