現在、公開中の映画『大きな家』に企画・プロデューサーとして関わる齊藤工さん。きっかけは児童養護施設でのイベントに参加したときのある出来事でした。「2年間の撮影が終わった今のほうが子どもたちとのつながりが強くなったように感じる」と話します。

子どもたちとの約束を果たすため児童養護施設を再訪し

── さまざまな事情で自身の親から離れ、児童養護施設で暮らす子どもたちの今を記録した映画『大きな家』を企画・プロデュースされました。そのきっかけとなった児童養護施設の子どもたちとの出会いについて教えてください。

 

齊藤工

齊藤さん:4、5年前、イベントスタッフとして伺った都内の児童養護施設で、子どもたちや職員さんたちと仲よくなったんです。帰りに子どもたちが「また会いましょう」って言ってくれて、なかでもピアノを弾ける子が「今度はピアノを弾くから聴いてね」と声をかけてくれました。でも、直近で再訪の予定はなくて…。そのときの僕の様子を見てか、子どもたちの顔がとても寂しそうに見えたんです。勝手にですけど…でも、どこか慣れているようにも僕には感じられました。

 

「あ、これは1回きりになるのは嫌だな」と思ったんです。思い返せば、それが『大きな家』という作品の出発点だったのかなと思います。それから、行けるときに子どもたちに会いに行くようになり、「来たよ」って子どもたちと一緒に過ごすようになりました。ピアノが弾ける子のピアノも、2回目の訪問で聞かせてもらいました。

 

齊藤工、竹林亮監督
齊藤さん(左)と竹林亮監督

── 映画化まではどんな経緯があったのでしょうか。

 

齊藤さん:児童養護施設の子どもたちと仲良くなってきた2021年、竹林亮監督のドキュメンタリー映画『14歳の栞』を観たんです。竹林監督とは以前から何度か撮影でご一緒していたのですが、子どもたちの姿や言葉をていねいに撮影されていて。「ああ、この映画を撮る監督なら、子どもたちのことを守りながら映画を作ることができるかもしれない」と思い、竹林監督に相談しました。

「自分たちを知ってほしい」という子もいる

──「子どもたちのことを守る」とはどういうことでしょう?

 

齊藤さん:子どもたち一人ひとりの大切な情報を守ることです。話しているうちに「自分たちを知ってほしい」という子もいることがわかって。子どもたちの意思を尊重しながら映像化するにはどうすればいいか、施設の職員さんやスタッフと話し合いを重ね、映画館のみの公開としました。出演してはいなくても映画化を受け入れてくれた子もいます。それも含め、すべての関わってくれた子どもたちが、情報の海に放出されたことで苦しい思いをしないように…そんな思いでした。

 

齊藤工
映画館で観客一人ひとりにチラシを手渡しする齊藤さん

── 職員さんたちとやりとりをするなかで何か気づいたことはありますか?

 

齊藤さん:職員の方たちと仲よくなっていくなかで、施設を卒業した子たちとの関わりを目にするようになりました。日常的に子どもたちからSOSの連絡が入ってくるんです。施設を巣立ってから、彼らはいろいろとつらい思いをしていることがわかりました。それに、職員さんの人数は変わらないのに、卒業生は増えていくんですね。卒業生たちの声を受けとめる職員さんたちを見ていて、限られたキャパシティを越えているようにも感じました。

 

もちろん全国に607か所ある児童養護施設では、一つひとつ状況は異なると思います。ただ、社会との折り合いが難しく、厳しい状況に置かれた子どもたちが確かにいて、彼ら彼女らの心の叫びを職員さんたちは受けとめていると知りました。