「医師とデザイナーどっちが大変?」の答えは…

── 脳外科医というと、まだまだ男性が多い世界ですし、医師のキャリアと並行しながら異分野でも活躍される姿を快く思わない人もいるのではと想像します。ご自身はどう感じていますか?

 

Drまあやさん:正直なところ、あまり気にしていたことがないんですよね。それに医師の世界、とくに脳外科医の世界は、医師としての実力がすべて。私のような異端な存在は、むしろ「落ちこぼれ」や「負け組」とみられているかもしれません。そういう意味では、ねたまれるような対象ではないと思っています。

 

── 非常に多忙な日々だと思いますが、どのように両立されているのでしょう?

 

Drまあやさん:基本的に休みはないですね。毎週土日は、釧路のクリニックで診療をして、月曜の昼過ぎに帰宅します。火曜と水曜は、院長を務める横浜のクリニックで外来診療を行い、水曜の午後から木曜・金曜をファッションの仕事に充てていますね。

 

── 想像以上に過密なスケジュールですね。いったいどのタイミングで休息をとるのですか?

 

Drまあやさん:時間単位で休むという感覚ですね。あとは、移動時間が多いので、隙間時間に体を休めるようにしています。でも、休むと逆に働きたくなくなってしまうんです。気合と根性で生きてきた昭和世代ですし、むしろ動き続けているほうが性に合っているみたいです。どっちも厳しい世界ですから、常にアドレナリンが出っぱなしですね。

 

ただ、医療とファッションという異なるジャンルの仕事を両立させることで、気持ちのバランスがうまくとれ、ストレスが解消される部分があるんです。医療の仕事は、ある意味ルーチンが決まっていますが、ファッションは自由度が高く、自分で考えながら進めるので、うまくいかずに悩むこともあります。そんなときに、目の前の患者さんを診ることで「自分も役立っている」と感じ、少し自信を取り戻すきっかけになったりします。

 

── そうなのですね。ちなみに、トレードマークでもある鮮やかなレインボーヘアは、ウィッグだと思っていたのですが、地毛なのですね。診療のときはどうされているのですか?

 

Drまあやさん:診療前に、黒髪のウィッグをかぶるのですが、それが医師モードへの切り替えにもなっていますね。「医師とデザイナーどっちが大変ですか?」とよく聞かれるのですが、どちらも極めようとすると並大抵の努力ではたりません。ただ、産みの苦しみという点では、ファッションのほうが過酷かも…。そのぶん、作品が完成したときの喜びは格別で愛おしさが込み上げてきます。困難の多い道ですけれど、自分で選んだ以上、やると決めたことは最後まで貫きたいんです。

 

 

医師・デザイナーとして多忙な日々を送るDrまあやさんですが、2015年、病院での勤務中に腹部に激痛が走り、胆石が発覚。その後、卵巣のう腫も見つかり、手術を受けることに。自分が患者側になったことで、改めて痛みや苦しみに気づき「これからはもっと温かい気持ちで患者さんに優しく接しよう」と誓ったそうです。

 

PROFILE Drまあやさん

どくたー・まあや。1975年、東京都生まれ。2000年、岩手医科大学医学部卒業後、慶應義塾大学外科学教室脳神経外科に入局し、脳神経外科医として勤務。35歳でデザインの名門校であるセントラル・セントマーチンに入学。2013年、「Drまあやデザイン研究所」を設立。脳神経外科医として働くかたわらファッションデザイナーとしても活動中。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/Drまあや