後悔や罪悪感に苦しむことなく、自分を大事に

Drまあや
Drまあやさん岩手にて中学時代

── その後、大人になってから、断絶していた両親との関係に変化はあったのでしょうか?

 

Drまあやさん:父は私の洋服の展示会に一度だけ来てくれました。自分の胸の内をはっきり話すタイプではないけれど、気にはしてくれているんだなと。母とは、祖母が2018年に亡くなったときに葬儀で久しぶりに会いました。ほんの少し挨拶を交わした程度でしたが、それでもやっぱり嫌悪感があって、今ではもはや他人のような感覚ですね。

 

── たとえ関係を断った親でも、高齢になると介護をどうするか悩むという人も少なくありません。まあやさんは、どう考えますか?

 

Drまあやさん:私の場合、介護には関わるつもりはありません。母から何かしてもらった記憶はなく、温かい思い出もありません。むしろ祖父母の支えがあったからこそ、今の自分があると感じています。母は再婚して新たな人生を歩んでいますしね。

 

毒親を持つ人が介護問題に直面し、悩んでしまうことは理解できます。でも、感情に振り回されて自分を犠牲にする必要はないと思っているんです。後悔や罪悪感に苦しむことなく、自分を大切にしてほしいです。

 

正直言うと、私は母に対して近親憎悪のような感情を抱いている部分があります。私自身も自我が強い人間ですから、母を見ると、自分の嫌な部分が浮き彫りになる感覚があって、自己嫌悪に陥ることもあります。感情はうまく処理できているので、ヒステリックこそならないけれど、あの勝手な一面が自分にもあるのかもしれないと感じることも。だからこそ、反面教師として「ああはならないように」と気をつけて生きているんです。

 

 

脳神経外科医とファッションデザイナーの二刀流で話題になったDrまあやさんですが、医学部入学当初は医師の道1本で進むつもりでした。ファッションの道を志したのは34歳のとき。大学院での挫折をきっかけにファッションを学びたかった気持ちに火がつき、「2つの夢を追ったっていい。きっとやれる」と渡英を決断したことで今があるそう。

 

PROFILE Drまあやさん

どくたー・まあや。1975年、東京都生まれ。2000年、岩手医科大学医学部卒業後、慶應義塾大学外科学教室脳神経外科に入局し、脳神経外科医として勤務。35歳でデザインの名門校であるセントラル・セントマーチンに入学。2013年、「Drまあやデザイン研究所」を設立。脳神経外科医として働くかたわらファッションデザイナーとしても活動中。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/Drまあや