「GUCCIとのコラボで3500万円」も詐欺にあいほぼゼロに

── 漫画家の仕事は、締め切りが近づくと徹夜になるなど、不健康になりがちなイメージがあります。元気でいられる秘けつはなんでしょうか?

 

井出さん:私の場合、知り合いの漫画家が「徹夜自慢」をするなかでも、睡眠だけはたっぷり確保するようにしてきました。そうでないとアイデアはわいてきません。睡眠時間は、だいたい9時間くらい。ずっと机に向かって漫画を描いていると肩がパンパンに張ってくるので、夜は必ずお風呂に入り、疲れをとってから寝ます。

 

食事は栄養バランスを考えながら、ジャガイモや豆類をよく食べるようにしています。お肉は豚のヒレを毎週少しずつ食べるくらい。以前、糖尿病で薬を飲んでいたのですが、食事を健康的なものに変えたら数値が下がり、薬を飲まずに済むようになりました。心も元気でいたいので、なんでも人任せにせず、気になることは自分で調べたり、周りに聞いたり。何事も先延ばしにせずに、すぐに対応するようにしていますね。最近、プールにも通い始めたところです。泳ぎは昔から得意で、バタフライもできますよ。周りからは「トドのバタフライ」とからかわれますが、気にしません(笑)。

 

── あまたの修羅場を乗り越え、波乱万丈の人生を送ってこられた井出さんにも「怖いもの」はありますか?

 

井出さん:そうねえ。やっぱり健康でいられなくなることでしょうね。体調を崩すと大好きな漫画が描けなくなってしまいますから。それ以外に怖いものは…もうないです(笑)。

 

── 2018年には、初期の少女漫画「ビバ!バレーボール」(1968年~)のイラストが、高級ブランド「GUCCI」のコラボに採用され、話題を呼びました。

 

井手さん:ヨーロッパで開催されていたアジア漫画展で、私の『ビバ!バレーボール』の絵を見たGUCCIの方から突然、連絡があったんです。まだデビュー間もないころの作品で、「自分は絵が下手」というコンプレックスがあったので、すごく驚きましたね。その後、グッチのデザイナーだったアレッサンドロ・ミケーレから直接メールがきて、『ビバ!バレーボール』の見開きイラスト1枚から、いろいろとデザインをおこして商品化されました。いちばん売れたのはドバイだったそうです。あとはブラジルね。

 

井出智香恵
GUCCIとのコラボ商品と一緒に

── 世界の有名ブランドとのコラボは、スケールが違いますね。ぶしつけな質問で恐縮なのですが、井出さんの手元にはどれくらいのお金が…?

 

井出さん:3500万円くらいですね。ただ、そのうちの大半は、国際ロマンス詐欺の被害にあい、失ってしまいました。本当にバカなことをしましたね。レディコミ全盛期は1億円以上の年収がありながら当時の夫にすべて使われ、今度は国際ロマンス詐欺の被害にあって財産を失ってしまい、いまは食べていくのがやっとの貧乏生活です。でも、そこまで悲壮感はないんです。私には漫画があり、まだまだ描きたいこともたくさんある。命が続く限り、大好きな漫画を描いて、たくさんの人に心に届けたいですね。

 

PROFILE 井出 智香恵さん 

いで・ちかえ。1948年、長野県生まれ。1966年、少女漫画誌『りぼん』にて『ヤッコのシンドバット』でデビュー。1968年、『ビバ!バレーボール』がヒット。1980年代からは、成人女性向けの漫画に活動の場を移し、たくさんの作品を生み出し続けている。代表作に『羅刹の家』『嫁と姑“超”名探偵』『人間の証明』など。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/井出智香恵