人生はつまらないものなのか、おもしろいものなのか。77歳にしていまなお、ものすごいペースで漫画を描き続ける井出智香恵さんに話を伺うと、お金の多寡をうっちゃるような、人生が充実する真髄を思い知らされることになりました。(全3回中の3回)

77歳のいまも毎月100枚ペースで漫画を執筆

── 嫁姑バトルや男女の愛憎劇など、ドロドロとした人間模様を描く大人の女性向け漫画・レディースコミックの世界で、77歳になるいまもペンを握り続ける『レディコミの女王』こと井出智香恵さん。じつは、井出さん自身も元夫のDVや借金などで苦しんだ過去を持ち、さらに晩年には、国際ロマンス詐欺で7500万円の被害にあうなど、まさに「レディコミ」を地で行く、人生を送ってこられました。

 

『ビバ!バレーボール』
「GUCCIからのコラボ依頼も来た」井出さんの貴重な初期作品

井出さん:まさに波乱万丈ですね。人生というのは、なかなか自分の思う通りにはいきません。なぜいつもこうなのだろう、私に神仏の心がたりないのかしら(笑)。ただ、振り返ると、ずっと誰かのために生きてきた人生でした。DV夫から子どもたちを守るためだったり、周りのために動いてきたり。これはもう私の運命なのかもしれないなと思ったりもします。

 

── いまも毎月連載を抱えて精力的に漫画を描き続け、SNSもひんぱんに更新されるなど、失礼ながら77歳とは思えないほどエネルギッシュでいらっしゃいます。あふれんばかりのバイタリティは、いったいどこからくるのですか?

 

井出さん:まだまだ体も元気で、頭もさえていて、毎月100ページくらい漫画を描いています。これまでの執筆原稿枚数は10万枚以上。周りには「ギネスに登録したほうがいいんじゃないか」と言われていますね。

 

井出 智香恵

よく「どうしてそんな長く描き続けていられるのですか?」と聞かれるのですが、答えは単純。漫画を描くのが、とにかく好きでたまらないから。朝から晩まで机に向かっていても苦にならないし、夢中になりすぎて食事をするのも忘れちゃう。辞めたいと思ったこと?一度もないですね。漫画を描いているときは、物語の主人公になりきっているので、ワクワクドキドキ。漫画を通じていろんな人生を生きられるのは刺激的だし、すごく楽しい。つねにアイデアが頭のなかでわいてくるんです。

アイデアは尽きない「自分の不幸もネタになる」

── 年齢を重ねて創作意欲が衰えるどころか、アイデアが湧き出てくるとは、まさに天職なのでしょうね。

 

井出さん:絵はそれほど自信があるわけではないけれど、ストーリーを作るのが得意なんです。子どものころから読書が好きで、なかでもミステリーの大ファン。高校時代は図書館のミステリー作品をすべて読んで、町から表彰されたくらい。レディースコミックでも、いつもどこかにミステリーの要素を入れてきました。

 

昔から私より絵がうまくてキレイに描ける漫画家はたくさんいたけれど、私ほど作品を量産してきた人はいないでしょうね。漫画家が辞めていくのは、だいたい物語のアイデアが尽きてしまうからですが、私はつねにストーリーにこだわってきました。こうして漫画家でい続けられるのは、そのおかげだと思っています。私の作品ではどんなに修羅場が続いても、最後には必ず主人公が幸せになったり、明るい兆しが見えるような終わり方を心がけているんです。不幸のどん底で苦しんだままにはしない。救いようのない話にはしたくないんです。

 

──そうなのですね。どんな思いがこめられているのでしょうか?

 

井出さん:これまで、不幸を背負ってしまった女性たちの身の上話をたくさん聞いてきました。読者のなかには、いままさに苦しい状況に置かれた人たちもいるでしょう。彼女たちに、「いま、つらい思いをしていても、最後はきっと幸せになれるから大丈夫。だから負けないで。たくましく生きて」と伝えたくて。いわば応援歌ですね。

 

もちろん現実はそうはいかないことのほうが多いかもしれないけれど、せめて漫画のなかでは、憂さ晴らしができたり、心の重荷が少しでも軽くなってもらえればうれしいなと思っているんです。なにせ私自身が夫選びに大失敗をし、さんざん苦しんできた張本人ですからね。自分の経験を活かし、DVに関する漫画では、暴力夫から逃れるためのアドバイスや対策なども盛り込んでいます。