頼みこまれてお金を渡す日々「総額は7500万円に」

── お金の無心が始まったのですね。

 

井出さん:1か月が経ったころ、「離婚訴訟に向かう飛行機代1100ドルを貸してほしい」と頼まれたんです。離婚調停中で自分の口座が裁判所の管理下にあって動かせないから、というもっともらしい理由でした。そこからせきをきったように借金のお願いが続きました。「足をケガしたからお金を送って」とギプスで固定した写真が届いたり、「トラブルがあったからお金を立て替えて」と言われたり。求められるままに応じていたら300万円の貯金が底を尽き、手持ちの貴金属などの宝物もすべて売りました。たりないぶんは恥ずかしながら長男に借金をして、彼に渡したんです。1か月で払ったお金は1000万円を超えていました。

 

さまざまな理由からお金の無心が続いた。マーク・ラファロをかたる偽者(AI技術を用いた合成写真)から送られてきた「ケガをした証拠写真」

── そこからなぜ7500万円まで被害が膨らんでしまったのでしょうか?

 

井出さん:彼からある日「妻であるキミに、自分の財産1200万ドル(当時で約13億円)を預かってもらいたい」と連絡があったんです。私が「貸したお金をいったん返して」と言うと「預けたお金から2億円はキミに渡す」と言います。いま思えば、ありえない話ですが、当時は信用してしまって。

 

その後、マークの知人を名乗る男性が、大量の札束が入ったスーツケースを持って私と次女のいる家にやってきました。ところが、開けてみると中のお札は真っ黒。男がお札を取り出し、特殊なオイルをかけると、真っ黒な紙幣がドル札に変わったんです。心底、驚きました。聞けば、税関に没収されないためだとか。実際、その100ドル札を両替所に持っていくと換金できたので、スーツケースのお金がすべて本物だと信じてしまいました。

 

偽者のマークの知人が運んできた黒いお札

── かなり手が込んでいますね…。

 

井出さん:そこからは、1200万ドルを受け取るための手数料だといって、さまざまな名目で何度もお金を立て替えさせられました。結局1円も戻ってきませんでした。泥沼から抜けだせないまま、数年間に渡り、お金を渡し続けるうちに7500万円まで膨れ上がっていました。

 

漫画家としての収入はもちろん、換金できそうなものはすべてお金に換え、子どもや知人からも借金をしてしまいました。2018年に、私の初期の少女漫画がGUCCI(グッチ)に採用され、コラボアイテムが発売されたのですが、それらもすべて売り、そのときの契約金3500万円もほぼ渡してしまいました。本当に愚かだったと反省しています。