国際ロマンス詐欺「長女のおかげで目が覚めた」

── 途中で「もしかしたら騙されているのかも…」という感情が芽生えていたそうですね。それでも突き進んでしまった。どういう思いがあったのでしょうか?

 

井出さん:「もしかしたら嘘かも…」と何度も思ったんです。それでも、彼はあの手この手を打ってきて、ズルズル送金を続けてしまった。みんなには「なぜ気がつかなかったのか。愛しているからだろう?」と言われましたが、それは違います。愛情があったのは、最初の1年半ぐらい。あとは、自分の貸したお金を取り戻すためにお金を渡す、の繰り返しでした。愛という言葉も、私からはいっさい使っていません。私にとっては、注ぎ込んだお金を取り戻すための戦いでした。

 

いま思えば、プライドもあったのでしょう。人間の欲望や裏切りなどの感情をさんざん漫画に描いてきた私が騙されるはずなんてないと。どうにかして信じ込もうとしていた気がします。

 

結局、私を救ってくれたのは、長女でした。突っかかる私を制止しながら騙されている証拠をひとつずつ見せ、説得してくれたおかげで、ようやく目が覚めました。洗脳から溶けたような感覚でしたね。いまも子どもたちや知人から借りたお金が総額5000万円近くあるので、働いたお金から少しずつ返済をしています。死ぬまで頑張って働いて、なんとかお金を返していくつもりです。

 

井出 智香恵
1980年に長女を出産し、3人の子どもに恵まれた

── その後、事の顛末を著書(『毒の恋 7500万円を奪われた「実録・国際ロマンス詐欺」』)にまとめ、メディアでも発信したり、詐欺防止の啓蒙活動にも取り組まれています。自身の経験を赤裸々に明かすことに抵抗はなかったですか?

 

井出さん:じつを言うと、国際ロマンス詐欺にあったと明かしたとき、マスコミに絶対叩かれる、世間にもバカにされるのではないかと身構えていました。ところが、意外と共感してくださる方もたくさんいて、皆さんが温かくて。「じつは私も…」という声もあり、「老後の資金を失った」「夫に言えず困っている」と悩んでいる方もいると聞きました。恥を忍んで自分の経験を伝えることで、2度と私のような目にあう人が現れないようにしていきたいですね。

 

 

国際ロマンス詐欺も壮絶な経験ですが、30歳で結婚をした夫も想像を絶するダメ夫でした。DVや散財など、「地獄の夫婦生活だった」と井出さんはいいます。年収1億円を超えても、生活は苦しいままだったそうです。

 

PROFILE 井出 智香恵さん 

いで・ちかえ。1948年、長野県生まれ。1966年、少女漫画誌『りぼん』にて『ヤッコのシンドバット』でデビュー。1968年、『ビバ!バレーボール』がヒット。1980年代からは、成人女性向けの漫画に活動の場を移し、たくさんの作品を生み出し続けている。代表作に『羅刹の家』『嫁と姑“超”名探偵』『人間の証明』など。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/井出智香恵