障害に関係なく共有できるアプリを開発
── 一方的に発信することに違和感を覚えたのは、どんな部分ですか?
織田さん:ただ情報発信するだけでなく、いろんな経験から得た学びを多くの人と共有し、みんなで社会を変えていきたいと感じたんです。私がYouTubeで「車いすでこんなことができます」と発信しても、「織田さんは協力者がいるから特別ですよね」と、言われるのが悔しくもあったんですよね。
もっとたくさんの人を巻きこんで、問題を解決するために具体的に何をしたらいいんだろうと考えたとき、「車いすの人でも安心して外出できるようなバリアフリーマップを作りたい」と思ったんです。でも、そんなプラットフォームを作れるようなシステムの知識はまったくなく、資金もありません。そこでGoogle主催のみんなの力を集結して大きな変化を巻き起こすアイデアを募集する「Googleインパクトチャレンジ」に、応募してみました。すると、グランプリを受賞して5000万円の賞金をいただき、それを資金にバリアフリーマップ「WheeLog!(ウィーログ)」を開発しました。
このアプリはいろんな人が見つけた街中のバリアフリー情報を集め、バリアフリーマップを作るのが特徴です。経験が価値になり、どんな人でも誰かの役に立つことができる。ふだんは助けられることが多い障害者であっても、他者に貢献できる世界を実現したい。車いすで実際に走行したルートや、ユーザー自身が実際に利用したスポットなどを共有しています。たとえば、駅や公共施設の車いす用トイレなどを撮影し、アプリにアップしてもらっているんです。すると場所はもちろん「ここのトイレは大きくて使いやすい」など、わかりやすくなります。このマップは障害者だけでなく、健常者の方にも協力してもらい、情報提供をお願いしています。

── 幅広い利用者がいるのですね。なぜ健常者にも協力をお願いする形にしたのでしょうか?
織田さん:障害者だけの閉じられた活動にすると、社会は絶対に変わらないと思ったからです。私も自分が障害者になる前は、障害者のことにまったく興味がなかったし、知識もありませんでした。だから、たくさんの人に声をかけ、興味を持ってもらうことが大事だと思ったんです。それに車いすユーザーが情報を集めながら移動するよりも、健常者に参加してもらえば、飛躍的に情報量が増えます。バリアフリーに興味・関心がある方にはどんどん仲間になってほしいです。
現在は登録ユーザー数が約3万人、アプリのダウンロード数は10万を超えています。いまの私は身体が動かない状態で、誰かから助けてもらう立場かもしれません。でも、サポートしてもらうだけでなく、私が行動することで誰かに影響を与えられるのではないかなと思っています。アプリ開発は、一度作ったら終わりではありません。改修や運用には、巨額の資金が必要です。それでも、車いすやその人たちを応援するアプリユーザーから利用料を徴収することは絶対したくありません。だからこそ、外部からの資金調達が必要で、企業スポンサーを募集したり、毎年夏にはクラウドファンディングにも挑戦したりしています。悩みや苦労が尽きない日々ですが、誰もが暮らしやすい社会を作っていくのが目標です。
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難病を告知されてから、お互いに真剣に話し合って結婚や出産を経験した織田さん夫妻。当初は夫が自分に費やした時間や労力を考えると苦しさと申し訳なさがあったそう。しかし、一緒に活動を続けるなかで、最近はもしかしたら彼にとっても私と活動することは「楽しいんじゃないかな」と思えるようになってきたと言います。
PROFILE 織田友理子さん
おだ・ゆりこ。遠位型ミオパチーにより電動車椅子を利用する中途障害者。一児の母。国内外を車椅子で多数実地調査。2008年に遠位型ミオパチーの患者会「PADM」を設立し、2015年代表に就任。「車椅子ウォーカー」代表。「NPO法人ウィーログ」代表。株式会社インターアクション(プライム上場)社外取締役。国土交通省 高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準に関するフォローアップ会議委員。東京都福祉のまちづくり推進協議会委員。
取材・文/齋田多恵 写真提供/織田友理子