「目に見えない障害にも目を向けて」

── そこから12年経って、番組に出演した際に人工肛門であったことを公表されました。どのような反響がありましたか。

 

中井さん:「びっくりしました」という声が多かったです。同じようにオストメイトになって悩んでいらっしゃる方からご連絡いただくなど、反響は大きかったです。誰かの役に立てたらいいなという思いで公表したものの、一生向き合っている方々からしたら、「たった1年だけで、今はそうじゃないから言えるんでしょ」とか、売りにしていると思われたらどうしようという気持ちも正直ありました。私が人工肛門になるとわかったときに心の支えだったのは、直腸がんの手術を受けてオストメイトであることを公表していらした渡哲也さんの存在でした。

 

「ご活躍されている渡さんように、私も仕事ができないわけがない」と思えて励まされたんです。当時の私にとっては、ものすごく大きな存在でした。私も誰かのそんな存在になれたらいいなと思いましたし、口から食べ物を入れて、消化して、排泄してという体の流れのなかで、外から見たらわからない症状を抱えている人もいるということを多くの人に知ってもらえるチャンスになればいいなと考えていました。

 

── 社会にどういう理解が進んだらいいなと思いますか。

 

中井さん:オストメイト用のトイレを見る機会があったときに、「どうしてトイレにもう1つ洗い場があって、シャワーがついているんだろう」と思って興味を持ってもらえるだけでも違うと思います。自分や周りの方がこの先、人工肛門にならないという保証はありません。いざ直面した際にも、どういうものかがわかっていれば、少しは冷静になれるのではないかと思います。

 

人工肛門の方は、袋や消臭剤など、いろんなものを持ち歩く必要があるのですが、たとえば災害の際に自治体にある程度、常備はされているとしても、自分が普段使っているものではありません。非常時は、今まで使っていないものも使わなければいけない事態も起きてくると思いますが、そういうことに対する精神的なつらさや不安を抱いている人がいると知っているだけでも、優しくできるのではないかと思います。外からは何の障害も持ってないように見える方でも、障害を抱えている人がいるということを知ってほしいです。まずは知ることから始めるだけでも、他人に対する想像力や思いやりの気持ちを持つことができると思って発信を続けています。

 

 

不妊治療をきっかけに腹膜炎の手術を経て1年間の人工肛門生活を送った中井美穂さん。何度もお腹を開けているぶん腸閉塞のリスクがあるため、閉鎖手術をしたあとも子どものことはいったん、横に置かざるを得ない状況だったそう。夫婦の話題にも子どもの話は自然となくなっていった、と当時の様子を明かしてくれました。

 

PROFILE 中井美穂さん

なかい・みほ。フリーアナウンサー。87年フジテレビ入社。アナウンサーとして「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」など多くの番組に出演。退社後「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務め、現在は「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)、「スジナシ」(TBS)、「華麗なる宝塚歌劇の世界」(時代劇専門チャンネル)、「アルバレスの空」(BSテレ東・ナレーション)等にレギュラー出演。演劇のコラム、動画配信番組、イベントの司会、クラシックコンサートのナビゲーター、朗読など幅広く活躍。がん患者支援団体NPO法人キャンサーネットジャパンの理事として啓発のイベント・市民公開講座の司会などの活動も行う。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/中井美穂、NPO法人キャンサーネットジャパン