父の病室で勉強するも身が入らずどん底を体験
── お父さんの言葉が大きかったんですね。
片岡さん:ただ、その後に父が入院したんです。苦しんでいる父に憔悴する母…。僕は役者の仕事を断って、ひたすら試験勉強。人の役に立ちたくて役者の仕事を断り、気象予報士としてもまだ何も役に立てない。夜中、父につき添いながら病室で勉強しましたが、あれが人生のどん底でした。今振り返っても、あのとき以上につらいことはありません。まったく勉強に身が入らなかったのですが、やるしかない。結局、父は僕の合格を見る前に亡くなりました。最後は会話もできなくて、だからこそ面と向かって言われた、「いいことだから、がんばれ」の言葉が心に残り、何が何でも合格しようと思いました。
── 受験勉強につらいことが重なったんですね。気象予報士の試験の難しさはどのあたりにあるのでしょうか?
片岡さん:気象予報士の試験は「一般」「専門」「実技」の三科目にわかれています。実技試験を受けられるのは、天気図を判断するための「一般と専門」に合格している人だけです。この「一般と専門」の合格有効期間は2年間(試験は年2回実施)で、その間に「実技」に受からなければリセットされて、またゼロからのスタートになります。なんとか約束の2年以内に受かろうと必死でした。
── 2年目最後の実技試験は、「今回こそ、受からなければならない」と大きなプレッシャーを感じたのではありませんか?
片岡さん:はい。でも、僕には父が応援してくれているように感じるできごとが重なりました。たとえば、試験会場が都内にある父の母校だったんです。そして、実技の問題が配られ、開始前、内容的に支障ない1ページ目がうっすら透けて見えており、分析する天気図の日付が父の命日だと知りました。実際は、問題の年度はXX年になっていましたが…。偶然だというのはわかっています。でも、父が亡くなる前後は雪が降って、病院に行くのも大変でした。そんな日の東京の天気を忘れられるわけないし、父のことが思い出されて試験前に号泣してしまいました。
「父が応援してくれているに違いない」と自分に言い聞かせて試験冊子を開くと、実際は九州の天気予報の問題だったので、あれっ?となりました(笑)。気を引き締め、天気図を解析して天気予報を作りましたが、僕にとっては奇跡のようなことでした。もし受からなかったら、僕はメディアや芸能界にはもういなかったかもしれません。それくらい人生を賭けた勝負を、最後までつなぎとめてくれたのは父親だったと思います。