いつも肯定してくれた大先輩に恥じない生き方を

── 2年間の猛勉強の末、合格。翌年には、テレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』の天気コーナーに抜擢され、平日朝の天気予報とユニークなストレッチが話題となり、書籍も刊行。もう5年近く続いていますが、誰がストレッチを考えているのですか?

 

片岡さん:ふだんからの人間観察をもとに、僕がストレッチを考えています。もともと期間限定の予定でしたが好評で、現在も続いています。ストレッチは場所や時間を選ばず、すぐにできます。また、ちょっと元気がないときも、身体を動かせば心も動きます。僕の考えたストレッチが、毎朝、天気予報をご覧になる方にとって運動するきっかけになり、習慣になればといいなぁと思います。これからもできる限り、愉快なストレッチを考えていきたいです!

 

戦隊ヒーロー時代、子どもたちにはよく声をかけられていたのですが、天気予報を始めてからは多くの世代の方から町でも声をかけてもらい、すごく新鮮ですよ。

 

片岡信和
新潟県の十日町に田んぼを借りて米づくりに挑戦「ご飯は毎回土鍋で炊きます」

── 気象予報士として着実にキャリアを重ねていますね。しかも、自分のアイデアやこれまでの経験や得意なことをいかして、視聴者をひきつけています。

 

片岡さん:これまでの役者の経験はかなり役立っています。そもそも気象予報士は、人前に立って話す資格ではないんですよ。あくまで気象庁の資料を見て、自分で独自の予想を作る仕事であり、9割近くの気象予報士はデスク業務をしています。

 

残り1割の人がテレビなどの媒体を通して人前で話をしますが、人前に慣れてない人たちもたくさんいます。後からアナウンサースクールに通う方も多いのですが、僕は20代から役者として発声練習から舞台まで経験してきました。このアドバンテージは意外と大きくて、僕はカメラの前で動じないというだけでなく、演者としてふるまうことができたので重宝されました。

 

── たしかにすべてがつながって、相乗効果を発揮しているように思えます。

 

片岡さん: 20代、役者としてたくさん恥をかき、厳しく指導されてきた経験がものを言っています。人前に立って話を聞いてもらうことの重み、そのためには何が大切かを、僕は誰よりも理解していると思います。いちばん大切なのは「絶対に恥ずかしがるな」ということ。恥ずかしがった瞬間、見ている人には何も伝わらなくなります。

 

下手でもいい、緊張して足が震えてもいい、でも、恥ずかしがる時点で人前に立つ資格はありません。一生懸命取り組んだら、恥ずかしがるはずないんですよ。恥ずかしいなんて、視聴者に失礼。ストレッチもテレビ朝日の夏祭り中継も何のてらいもなく、ただ一生懸命やるだけです。ドラマでも舞台でも、厳しく言われてきたので、僕は恥ずかしさのネジが抜けているんです(笑)。

 

── 弾き語り天気予報での堂々たる態度もうなずけます。

 

片岡さん:本当に人を感動させるためには、相手のことを100%考えるべきです。2024年10月からの『有働Times』弾き語り天気予報は、簡単そうにふるまっていますが、じつはものすごく練習し、タレント人生を賭けて挑みました。10代のころ思い描いた道とはまったく違いますが、役者、ピアノ、作曲、天気予報と、好奇心のままにバラバラに取り組んできたことが、おもしろいほどつながってきました。

 

── 好奇心のままに進んだ20代、人生を賭けて勝負した30代、これからは?

 

片岡さん:時間の許すかぎり、声をかけてもらえれば何でもやりたいです。死ぬまでずっと人生の「途中」だと思っています。人生と言えば、大先輩である大杉漣さんの言葉を思い出します。「どんなに時代が変わっても、人生で変えていけないことがある。変わり続けることを、変えちゃいけないんだよ」、そう言って、「じゃあね」と、地方ロケ先の知らない街を散歩に出かけていった漣さん。

 

お芝居の現場で、まわりから「お前、そんなんじゃダメだ」と言われ、軽いノリでいじられたりするときも、漣さんだけはそんなこと言わず、「君の芝居、好きだよ」と、言ってくれました。ずっと自信を持てなかった僕は本当に救われました。こんなふうに、そのときの自分に必要な言葉をかけてくれる人との出会いに恵まれ、今の僕があります。

 

PROFILE 片岡信和さん

かたおか・しんわ。中央大学卒業後、2006年に芸能界入り。「炎神戦隊ゴーオンジャー」(テレビ朝日系)で本格的に俳優デビュー。 ドラマ、映画、舞台、ラジオパーソナリティーなど多方面で活躍。 2019年に気象予報士試験に合格し、 2020 年の春よりテレビ朝日系 「羽鳥慎一モーニングショー」の天気コーナーを担当。『かたおか気象予報士の毎朝10 秒! 楽しく「お天気ストレッチ」』(幻冬舎) 出版。2024年10月より、テレビ朝日系「有働Times」でピアノ弾き語り天気予報を行っている。2025年5月よりNHK総合夜ドラ「ワタシってサバサバしてるから 2」に神谷聡介役で出演。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/片岡信和、株式会社MYS