私の半生は一体なんだったんだろうと悩み
── 今までとは真逆の生活になるわけですね。
中村さん:それまでは、人に甘えるのはよくないと思って生きてきたので、今さら人に甘えるなんてできなくて。退院してしばらくは、本当に人に何かを頼むのが情けなくてしかたがありませんでした。お茶ひとつ持ってきてもらわないと飲めないという事実が悲しかったですね。自立しようと頑張ってきた私の半生は一体なんだったんだろう、とすごく落ち込んでいました。20代からずっと、ひとりで生きていけるようにと努力してきたのに、それが全部、無意味になってしまったような気がしたんです。
── 今はどのようなお気持ちですか。
中村さん:不自由な体であることが当たり前になってからは、「ひとりで生きていくにも限界がある」ということに気づきました。もしそうでなければ、老衰や認知症になるまで「ずっとひとりで生きていく!」と頑張り続けていたと思います。実際に病気になるまでは、自分の人生の責任は自分でとれるから、たとえ夫がいなくなっても支障はないと思っていました。食事は最低限作れるし、掃除はしないけど汚くても平気だし、誰にも迷惑をかけていない、ひとりで生きられると自負していたんです。でも、それってただの傲慢ですよね。
── 今まで自立して生きてこられたからこそ、そのように思うのではないでしょうか。
中村さん:たしかにそうかもしれません。でも、配偶者の手じゃなくても、施設の方やヘルパーさんなど、いつか人の手を借りなければいけない日は誰にでも来ると思うんです。だからこそ、謙虚な気持ちでいることが大事だなと思います。実際、夫は退院後、四六時中そばにいて介護をしてくれました。そのおかげで、夫の存在がいかにありがたいかを実感しました。だから、「いつまでもひとりで生きていける」という考えが傲慢だったということを、50代になって思い知ることができてよかったと思っています。
…
今では献身的に介護をする旦那さん。結婚当初は中村さんが買い物依存症のピークで、カードの支払日には出版社に原稿料を前借りしに行くなど、お金集めに奔走していた時期。「結婚したら、この人の人生を半分背負うことになるのか」と自問自答したそうです。しかし、覚悟を決めた結果、波瀾万丈な生活だったものの、結婚生活はすでに20年以上。ゲイである夫とは「普通の夫婦」ではないけれど、2人の間に愛はあると思っていると、中村さんは言います。
PROFILE 中村うさぎさん
なかむら・うさぎ。作家・エッセイスト。著書『ショッピングの女王』『女という病』『私という病』など。2019年に、スティッフパーソン症候群の疑いで入院。現在は、YouTubeやSNSで、日々の出来事を発信。
取材・文/大夏えい 写真提供/中村うさぎ