想定以上の老朽化で見積もりは2億円

リノベーションする前の「KAWACHI BASE―龍栄荘―」

── 皆さんの思いも背負ってスタートしたプロジェクトだったのですね。

 

スザンヌさん:皆さんの話を聞いてなかったら、きっとこうした構想にはならなかったと思うので、感謝をしています。ゴールデンウイーク明けに物件を見に行って、購入を決めたのが5月の後半。8月の末から工事が始まりました。ところが、ここからが試練の始まりだったんです。

 

── と、いいますと…?

 

スザンヌさん:いざ、工事を始めてみたら、思った以上に老朽化が進んでいて、漏電やシロアリの被害があり、床は一部抜けていました。「まさかここまでとは…」と、正直ショックでしたね。リニューアルにかかる費用を建築デザイナーの方に見積もってもらったら全部で2億円かかると言われ、目が飛び出そうでした。屋根の瓦を張り替えるだけでも2000万円という見積もりに「建物を壊して更地にしちゃったほうが安くなるんじゃないの?」と。でも、皆さんの期待を裏切るわけにはいかないし、復活を宣言した以上、あとには引けない。意地もありましたね。

 

── 心が折れそうになりませんでしたか?

 

スザンヌさん:最初は「ここがどんなふうになっていくのかな」とワクワクしながら、河内町に行くのが楽しみで仕方なかったのに、工事費が1000万円単位でどんどん膨れ上がっていき、後半は「新たな不具合が出たらどうしよう」と行くのが怖くなり、足が重かったです。何度も「ここで『やめます』と言ったらどうなるのだろう…」という考えが頭をよぎりました。ただ、だんだん金銭感覚もマヒしてきちゃって、追加の修繕費用が500万円くらいだと「お、ちょっと安い?」みたいな(笑)。普段スーパーでお買い物をするときは、100円、200円の差も気にしているのに、変ですよね。

 

── お母さんの助言もあったとか。

 

スザンヌさん:「2億でも3億でも変わらないじゃない。借金してでもやるべきよ」と母には言われました。ずっと商売をしてきた母は「ビジネスで思いきったことをやったらやったぶんだけ、返ってきてくれる」という思考の持ち主。でも、私は、誰かに何かを借りたりするのは抵抗があって、自分の身の丈にあった範囲でやりたいタイプなんです。クラウドファンディングを薦めてくれる方もいたのですが、応援してもらえる気持ちはすごくうれしくありがたいけど、借りを作ってしまうのが負担に感じてしまう。だから、できる限り自分自身のお金でやりたいなと思っているんです。

 

── 意外といったら大変失礼かもしれませんが、堅実でいらっしゃいますね。

 

スザンヌさん:ただ、人生最大の買い物になることはたしかですから、本当にこれでいいのか自問自答しました。これから40代を迎える自分にとって、いちばん大切なものはなにか。それは、モノやお金よりも「人との繋がり」だなと。この場所でみんなが心からくつろげる場所を提供することが、大好きな熊本への恩返しになるし、私にとってもっとも価値のある素晴らしいお金の使い方になると思ったんです。人生観やこれからどうなっていきたいかを照らし合わせて考えた結果なので、自信をもって踏み出すことができたのだと思います。

 

もうひとつ忘れられない出来事があります。それは、元オーナーの久家さんから「3年先のことを考えて仕事をしなさい」という言葉をいただいたことです。目の前の利益だけを考えて仕事をするんじゃなくて、3年先にどうなっているか、自分がどうなりたいかを考えながら、仕事に向き合うことで、お客様をもてなす姿勢も変わってくるし、自分自身の成長にも繋がるよ、と。その言葉がすごく腑に落ちて、自分の中で励みになっています。それ以来、物事に迷ったときには、「3年後、後悔しないような選択をしよう」という基準で考えるようになりましたね。