展示会で「でも売れないと思うけど」と言われるも
── その後、プロジェクター「ワイード」を開発されます。これもまた新たな取り組みですね。
坂和さん:当時のプロジェクターは映像を投影できる範囲が限られていて、黒板の3分の1程度しか映すことができませんでした。「黒板の端まで映せるものがほしい」という先生方の声もあり、プロジェクターの開発に乗り出しています。端から端まで映すことができ、さらに映像サイズを変えて左右に移動することも可能にしました。そうすればより使い勝手もよく、いちばん後ろの生徒までよく見ることができるでしょう。
ただ、プロジェクターを作るのは本来、電機メーカーの仕事で、そういう意味ではうちは後発企業です。それに電機製品を扱うとなると、壊れてはいけないし、サポートもきちんとしなければいけない。手探りでしたけど、走りながら体制を構築していきました。展示会に出品したときに、誰もが知る大手電機メーカーの社長さんが「ワイード」のブースに興味を持ってくださって。じっくり見てくださったんですが、「でも売れないと思うけど」と、言われたことはちょっと悔しかったですね(笑)。

── 実際は大ヒットを記録します。
坂和さん:「黒板屋が出した黒板専用プロジェクター」というコンセプトが現場に刺さったようです。先生方の望んでいた通り、端まで映すことでより見やすくなった。それまで、プロジェクターは黒板に対して垂平に設置していましたが、それだとプロジェクターを置く場所をとる上に、前を人が通ると影ができてしまう。そこで「ワイード」は黒板の上に設置し、投影する設計にしています。教壇に立つ先生の影ができにくいと好評です。「ワイード」は少しずつバージョンアップを続けていて、もうすぐ4機目の発売を迎えます。現在シリーズで累計1万台近くを売り上げています。
ワイード開発とほぼ同時期に、ブルーグレーの黒板を開発しました。それまではプロジェクターで映像を黒板に投影すると、表示した映像がどうしても少し暗く見えていました。そこで、黒板の色を調整してチョークでの板書もプロジェクターで投影した映像も、これまで以上に見やすくしました。この商品もまた、ヒットしました。
── ここまでのヒットを予想されていましたか?
坂和さん:まったくしていませんでした。はじめは何か会社が変わるきっかけになってくれたらいいな、という程度の気持ちでした。ですので、これほどの反響は驚きです。歴史ある業界ながら、新商品の開発する企業風土が浸透し、チャレンジ意欲が旺盛な社員が入社するようにもなりました。社員数は変わっていませんが、1人あたりの生産性が確実にあがっているのを感じます。実際、2018年の売上高は5.3億円だったのが、2023年は18.6億円と、5年で3倍近くになりました。会社自体が変わってきた実感はあるし、まだまだ変えていくつもりでいます。
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新商品の開発により黒板に新しい価値を与えた4代目社長の坂和さん。その手腕は社内の働き方改革にも発揮されていきます。
PROFILE 坂和寿忠さん
さかわ・としただ。1986年生まれ、愛媛県出身。1919年創業の黒板メーカー「サカワ」の4代目と社長。2009年にサカワに新卒入社。東京支店で電子黒板の営業職に従事。2015年ハイブリッド黒版アプリ「Kocri」を開発し、翌年ウルトラワイドプロジェクター「ワイード」を発売。2018年4代目代表取締役社長に就任。売り上げ記録を更新する。
取材・文/小野寺悦子 写真提供/サカワ