SNSで独立宣言「自分にプレッシャーをかけた」

井上さんは成功のポイントを大きく2つ挙げます。ひとつはSNSを使った自己開示です。

 

「僕はSNSで自分のことを積極的に発信しています。それをマイナスにとらえる人もいますが、僕にとってはプラスでしかないんです。ニート生活をしていたときも、自分の状況をネット上でさらけ出していました。その場がなければ、孤独と不安で落ち込んでいたかもしれません。また、『僕は独立します』『生クリーム屋をやります』などと宣言。公にすることで逃げ道をなくし、自分を鼓舞していたんです。そして何より、言霊の力を信じていました」

 

こうしたSNSの発信や決意がチャンスを呼ぶことにもつながりました。

 

「『なまくり』自販機の第1号をSHIBUYA109に設置できたのは、僕のTwitter(現X)でのつぶやきを知り合いが見て、窓口の人を紹介してくれたからです。その出会いがなかったら、ヒットは確実に遠のいていたでしょう」

 

会員制パフェBAR「Remake easy」のパフェ
スイーツ好きな井上さんがいまお気に入りなのが会員制パフェBAR「Remake easy」のパフェ

もうひとつは、閾値(いきち)を超えたこと。閾値とは、変化が起こる地点、境界を指す言葉です。

 

「自分を変えたいと思ったら、閾値を超えなければなりません。単純にいえば行動を起こすということですが、多くの人は現状に甘んじて何もできません。僕は料理人の職場になじめず、ニートになって底辺を経験し、絶望を味わう中で閾値を超える決意をしました」

 

決意から実際の行動に移せたのは、ネット上の情報のおかげといいます。

 

「堀江さんもよく口にする『情報の民主化』です。ネットを見れば、YouTubeの動画配信で稼ぐ人やSNSで集客してモノやサービスを売る人など、収入手段、生き方の選択肢は山のようにある時代になりました。そうした情報に勇気と知恵をもらい、自販機型の『なまくり』を生み出して勝機をつかんだわけです」

 

何かを変えなければ自分も人生も変わっていかない。それは小さなことでいいとエールを送ります。

 

「たとえば、帰り道を変えていつもとは違うルートを歩いてみる。あるいは、ランチがいつも洋食なら中華にしてみる。こうした小さな変化が新たな発見を生み、日常を少しずつ変えていってくれるんです。僕もそうでしたからね」

 

PROFILE 井上拓海さん

いのうえ・たくみ。株式会社リクーム代表取締役。発案した生クリーム缶『なまくり』が大ヒット。北海道産動物性クリームを使用。SHIBUYA109など全国9か所に設置する自動販売機とECで販売を行い、累計販売数30万缶突破。

 

取材・文/百瀬康司 写真提供/井上拓海