声優デビューも「監督が頭を抱えて」
── 現役大学生で、声優の仕事もしていたんですね。
小林さん:デビューできたとはいえ、落ちこぼれで。オーディションも落ちまくっていました。もともとものすごい緊張するタイプなのもあって、声も小さい、演技も上手くない、滑舌も悪い。音響監督が「お前、どうしたらいいんだろうな」と頭を抱えてしまうほどの居残り組でした。仕事がなかなかない時期は、事務所が持ってきたティッシュ配りやビルの清掃など、声優とは関係のない仕事も「これも何かに役立つだろう」と思ってがむしゃらにやっていました。

── デビュー後、順風満帆とはいかなかったんですね。
小林さん:あるとき、デビュー当時から大変お世話になっている三石琴乃さんが主役をされているアフレコ現場の見学をさせていただいたことがありました。三石さんから、「本気で声優をやりたいなら、毎週アフレコに見学においで。1回じゃ意味がないから毎週来て、名前を覚えてもらうところから始めてみて」と助言をいただいたんです。その言葉に「そうだ、こんなことをしている場合ではない」と思い、そこから音響監督に頼み込んでアフレコの見学をさせてもらうようにしました。とにかく名前を覚えてもらうところから始めようと、アフレコ後の飲みの場にも毎回参加させてもらいました。先輩たちやスタッフさんたちの貴重な話がたくさん聞けましたし、そこからオーディションに呼んでいただくことも増えました。まだ名前がない、A役、B役でしたけど、ちょっとずつ仕事がもらえるようになっていきました。
── 自分から動き出すことで状況が変わっていったと。
小林さん:声優は、この業界に足を踏み入れたら一生オーディションの連続です。ずっと追い立てられている感じといいますか、走り続けなければなりません。最初の頃に仕事がない時期を経験したので、早い段階から声優として生きる人生への覚悟ができていたとは思います。26年この業界で仕事をしていますが、「もう安泰だ」と感じたことは一度もありません。
── 声が資本の仕事だと思いますが、気をつけていることはありますか。
小林さん:デビューして6年ほどは、喉の使い方がよくわかっていなくて、しょっちゅう喉を壊していました。男の子の役で、割と叫び系のものが多かったので、「わぁ〜!」「うぉ〜!」とがむしゃらに叫んでいたら2、3か月、声がうまく出ないときがありました。そのころはあまり仕事も多くなかったのでなんとか騙し騙しできていたんですけど。経験を重ねるごとに喉の使い方も覚えていきました。緊張がほぐれると変なところに力が入らなくなりますし、風邪をひかない限り喉を潰すことはなくなりました。どの仕事でも一緒だとは思いますが、1年中、体調管理や健康には気をつけています。
── 仕事のやりがいと大変さを教えてください。
小林さん:小学校などの特別授業で声優の仕事について子どもたちの前で話す機会を何度かいただいたのですが、そのときの子どもたちから「(私が声優を担当しているアニメを)それ毎週見てる!」「面白い!」などの反応や、いただくお手紙にとても励まされます。SNSなどに、ファンの皆様から頂ける温かい言葉も本当に嬉しく、糧になっています。「声優をしていてよかった」と改めて思いますね。
声優の仕事は正解があるものではないので、毎回反省が多いです。終わってから「もっとこうすればよかった」と思ってしまいますし、ひとつの仕事が最終回を迎えたときの寂しさや、オーディションに落ちまくって「もう私は必要ないんじゃないかな」という気持ちにどう向き合って切り替えていくかは結構しんどい作業でもあります。そういうときは旅行に行ったり、仕事とは関係のないことをしたりして気持ちを切り替えるようにしていますが、最終的には「なるようにしかならない」ということも悟りました。
── 声優に憧れる方も多いですが、どのようにしたら夢を叶えられますか。
小林さん:より強く、より具体的に願い続けること。そのエネルギーが強ければ強いほど運や縁が回ってくると思います。それは夢が叶うまではもちろん、叶った後も夢は続いていくので、一生その強いを持ち続けていくことが必要になっていくと思います。
何歳までに声優になって、何歳までにこういう役をやって、何歳までに声優で食べていくと具体的な目標を決め、そのために「もうこれ以上頑張れない」というくらい頑張ろうと思いました。それでもダメだったら、違う才能があると切り替えて次に行くことも大事です。私は「20歳までにデビューして、25歳までに男の子の主役をやる!」と紙に書いてずっと持っていました。大変なことだとは思いますが、自分なりの人生設計をして夢を叶えていただきたいですね。
PROFILE 小林由美子さん
こばやし・ゆみこ。千葉県出身。1998年声優デビュー。2018年から『クレヨンしんちゃん』2代目 野原しんのすけを担当。主な出演作に『ドラゴンボールDAIMA』界王神(ミニ)、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』長田時弥、『ニンジャラ』バーン、『逃走中グレードミッション』トムラハル、『デュエルマスターズシリーズ』切札ジョー・切札勝舞・切札勝太、『デジモンアドベンチャー』泉光子郎、『鬼灯の冷徹』シロなど。プライベートでは2児の母。
取材・文/内橋明日香 写真提供/小林由美子