「福祉と介護の現場に長く身を置いてきて、子が親に対して述べる『後悔』の声をこれまでにたくさん耳にしてきた」と語るのは、ケアマネジャー歴20年の田中克典さん。そんな田中さんが勧める「親への小さな恩返し」とは?詳しくお話を伺いました。
「もっとこうすれば」親亡きあとに後悔する子は多い
親が亡くなったとき、「もっとこうしてあげればよかった」と振り返る人は大勢います。そして、後悔の念は葬儀・告別式、初七日、四十九日と、日を追うごとに押し寄せてくると話す人が少なくありません。私自身も3年前に父親を亡くしましたが、「もっとできることがあったかもしれない」と自分の不徳を感じたことがたびたびありました。
そういう体験があると、親への恩返しには二つの留意点があることに気づきます。
一つ目は「理想よりも現実」。ハワイ旅行のような大きなプレゼントよりも、背伸びをしない等身大の行為…言い換えれば「小さな心遣い」を積み重ねることが、結果的には親の幸せな晩年につながるのではないかという気がします。
二つ目は「タイミング」。親の老いは確実に進行します。病気やケガなどによって、それまでできていたことが突然できなくなってしまうケースは枚挙にいとまがありません。「思い立ったが吉日」という言葉があるように、親への恩返しは思いついたらできるだけ早く実行することが望ましいと私は考えています。
親への恩返しは、何かを一度やって終わりではありません。関わりながら親の老いていく状態を把握し、受け止めることも子の側には必要な心構えです。いま、自分の親が元気に暮らしているのであれば、「いつか」ではなく、まさに「いま」が恩返しのタイミングといってもいいでしょう。
帰省こそ最大の恩返しのチャンス
親と離れて暮らしているみなさんは、どれくらいの頻度でコミュニケーションを取っていますか?子の音沙汰を気にしない親はいません。週に一度は電話をするなど、定期的な連絡は、信頼できる親子関係を保つ基本だと私は思います。
そして、これ以上ない能動的なアクションが「直接会う」こと。家庭や仕事の都合で盆と正月くらいしか帰省できない人も多いかと思いますが、それならなおさらのこと、帰省したときは思いっきり親に恩返しをしてください。
直接会っているからこそできることはたくさんあります。たとえばスキンシップ。身体感覚を伴う刺激は、目や耳から受け取る情報よりも深く記憶に刻まれます。恩返しの気持ちも、スキンシップがともなえば文字や言葉以上に強く親に伝わるに違いありません。帰省は、親の体調や生活状態を把握する機会でもあります。老いとともに、以前できていたことができなくなっている場面にも遭遇するかもしれません。というより、むしろそういう変化がないかを確認してください。
もちろん個人差はありますが、70代後半以降は、身体機能や認知能力の低下が短期間で進むケースも。とりわけひとり暮らしの場合は、自分の外見や身の回りのことに行き届かなくなり、不便を不便だと思わずに生活することも珍しくありません。
自分が何をすれば、親が助かるのか?ここで紹介する恩返しだけでなく、みなさんも親が喜ぶ顔を想像しながら考えてみてください。