娘は私に忖度いっさいなしです
── 娘さんは、濱田さんの仕事をどんなふうに応援されていますか?
濱田さん:連ドラは観てくれていますが、娘はけっこうクール&ドライなタイプ。私のことを応援はしているけれど、特別なファンではないという感じで。あくまでもフェアな立場で、忖度なしで仕事を評価しますっていうスタンスというか。たとえば、ファンだったら「あなたがやることは何だって素敵」って言うじゃないですか。娘は「この表情はやらないほうがいい」とか言ってくる。だから、娘が絶賛してくれたらすごく安心しますね。逆にダメ出しをされたら、真摯に受け止めて修正するようにしています。
── 濱田さんの音楽活動についてはいかがですか?
濱田さん:モダチョキに関しては、娘にとっては自分が生まれる前に母がやっていたバンド。それを50歳を過ぎた母がまたやろうとしている、という状況で。娘は昔のDVDは見たことがあるけれど、生では見たことがないんですよね。でも、家でずっと練習しているしライブの衣装も作ったりしているのを見て、「なんだこの熱量は」と感じたみたいです。それで娘はモダチョキのファンになってくれたようです。
モダチョキに関しては、私がやり残した感を抱いていて。思い出してまたやりたいと思っても、なかなかできなかったので、封印していたんです。だから娘にも、積極的にはモダチョキの曲を聞かせたり、映像を見せたりはしていませんでした。それがブワーっと開けてはいけないパンドラの箱を開いてしまった今は、中にいっぱい詰まっていた思いがあふれている感じですね。それを娘も感じて、応援してくれている気がします。
── ライブ観戦にも?
濱田さん:もちろんです。この前は彼氏さんと一緒に来てくれました。あとモダチョキでインスタライブをしているのですが、そのときは家から配信するのがいちばん楽しいんですよ。配信する日は、娘が「OK、楽しんでね」といってこちらを気づかって出かけてしまうくらいです。
── つねに娘さんは冷静なのですね(笑)。ところで、娘さんがおつき合いしている彼については自然の流れで知ったのですか?
濱田さん:自然の流れでしたね。私からはあまり根掘り葉掘り聞かないようにしていて。大事なことは、本人が言いたくなったときに話してくれればと考えているので。自分からは聞かないけれど、話してくれるなら全部受け止めるというスタンスです。最初は会わせてくれなかったし、娘からもわが家の話はしなかったらしい。でも、彼氏さんと一緒に映画を観に行ったとき、「これ、うちのお母さん」って告白したらしいです(笑)。そうしたら「えー!本当!?」って驚いていたらしくて。娘としてはちょっと楽しいイベントだったようです。今では彼氏さんがうちに遊びに来てくれるようになり、3人でご飯に行ったりもしています。
── 本当に仲がいい親子なのですね。
濱田さん:ただ、親子としてつき合っているぶんにはいいけれど、娘が自分の彼女だったらうんざりしそう(笑)。娘の彼氏さんが、私に対して「甘やかしすぎ」って感じているのではないかなって心配です。私自身、自分の母に甘えすぎたかなっていう申し訳ない気持ちもあって。でも自分が甘えられるのは、友達でもなく、父親でもなく、きょうだいでもなく、母だけで。母にとっては、私が甘えすぎて大変だったかもしれないけれど。でも、母と娘って唯一の関係性ですよね。
── いくつになっても、親にとって娘や息子は子どものままなのかもしれません。
濱田さん:そうですね。無理なのはわかっているけれど、かわいかった3歳のころや、中学で部活を頑張っていたころに、一瞬だけでもいいから戻ってくれないかなって想像します。今はもう小さかったころのかわいさはゼロなので。でも大人同士だからこそのメリットもあって。今は服のサイズが同じなのでクローゼットを共用していて、私も娘の服をたまに拝借したりします。娘が私のクローゼットから「これ借りるね」って持っていくこともあって、自分のセンスを認められた気がして「よし!」ってうれしくなりますね。
── 母と娘を超越して友達のような関係ですね。
濱田さん:思えば、娘が高校2年生のときに短期間のホームステイに行くことになり、そのときは私のほうがギャーギャー泣きました(笑)。でも今は「いつかこの人は結婚をして家を出ていくかも」っていう心構えができている。自分の子育てスタイルはいいかげんかなっていう自覚はあったけれど、それでもなんとかやってきました。だから育児って、自己採点が60点くらいでいいんじゃないかな。世間のママたちの話を聞いていると、ちゃんとしすぎていて肩身が狭いわ~って感じます。
実は、私の育児エッセイの連載100回記念に、娘に原稿を書いてもらったことがあったんです。娘が締切を守らないから、私が「先生、原稿をお願いします」と下手に出て、やっと書いてもらって(笑)。その原稿に「私も母のような愛の深い女性になりたいです」と書いてあるのを読んで、すごくうれしかった。「愛情深い」ではなくて「愛の深い」っていう言葉を使っているところが特に。そんなふうに思っていてくれたのねって実感できて、感動しました。
PROFILE 濱田マリさん
はまだ・まり。1968年生まれ、兵庫県出身。1992年、「モダンチョキチョキズ」のボーカルとしてメジャーデビュー。1997年にバンド活動停止後は俳優として活躍し、NHK連続テレビ小説『マッサン』『カムカムエヴリバディ』など、数多くのドラマや映画に出演。2021年からは「モダンチョキチョキズ」の活動を再開。
取材・文/池守りぜね 撮影/CHANTO WEB NEWS