小学生のころから結婚できるか不安だった

── きょうだい児であることが、恋愛に関してハードルになることはありましたか。

 

藤木さん:ありました。弟の耳が聞こえないとわかったとき、母が周囲から、「弟の耳が聞こえないのは母親のせいだ」と言われているのを聞いて、小学生になるかならないかの時点で「結婚できるんだろうか?」と不安を感じていて。それに子育てに苦労する母の姿を見ていたので、子どもを持つことにも積極的になれませんでした。これは家庭環境などの違いが大きいので、きょうだい児それぞれで考え方はまったく違うと思います。

 

── 結婚に対しても消極的だったのでしょうか。

 

藤木さん:恋愛や結婚はできないかもしれないと思いながら、すごく憧れがありました。それはたぶん、家を出たいという気持ちと関連していたと思うんです。当時は、父や母はありのままの自分を認めてくれていないのでは…と感じていたので、恋愛で相手に認められたいという思考になりがちで。

 

でも、高校生や大学生になり実際に交際相手ができると、弟の話をどうするかということで悩み始めました。この人を私の人生に巻き込んでいいのかなって重く考えてしまって。でも、この点もきょうだい児によって個人差があると思います。ハードルを感じずに結婚される方もいるし、むしろ「頑張ってきたんだね」って相手のご家族が歓迎してくださる場合もあるので。私の場合、小さいころから弟といると周囲から冷たく見られたりして、わが家は普通じゃないんだという感覚があり、結婚して「普通」に落ち着きたいという思いが強かったんです。

 

藤木和子さんと夫
結婚して間もないころ、新居で身を寄せ合う藤木さんとご主人

── 32歳でご結婚されましたが、相手を探すために努力もあったのでしょうか。

 

藤木さん:そうですね。きょうだい児の自分とわかり合える人が理想で、親が離婚しているとか、家庭環境で苦労した方を探しがちでした。でも大変さの種類が違うのでわかり合えず、口論になることもあって。そういった経験から、障害について理解がある人と結婚したいという思いが高まりました。「きょうだい会」でも、結婚している人全員から話を聞いたんです。それで、きょうだい児の活動をしている弁護士だということを最初からオープンにして「きょうだい児である私を受け入れてくれること」を第一の条件にしました。ただ、最初からオープンにはせず、きちんと関係性ができてから話したほうがいいという考え方もあるので、一概にはこうすべきとは言えませんが。

 

── パートナーは障害者について詳しい方だったのですか。

 

藤木さん:そうですね。夫は障害者関係の委員会で出会った弁護士です。夫はきょうだい児ではありませんが、大学時代から家族の介護にかかわっていて、理解がありました。周りになかなか話しづらいよねとか、そういう感覚が一致して。私は結構、突き詰めて考えるタイプですけど、夫はまったく違って、おおらかに構える感じなのがいいなって。

弁護士になり、父からやっと認められて

── ご両親や弟さんとの関係に変化はありましたか。

 

藤木さん:弁護士になって、やっとひとつ宿題が終わったという感覚はありました。父と4年間一緒に働いた後、結婚を期に独立したのですが、ようやく父に認められた感じがして。父が仕事に関してすごく一生懸命やっている姿を近くで見られたのもよかったです。

 

── お父さんとぶつかることは減りましたか。

 

藤木さん:そうですね。いさかいする気力もお互いなくなってきたので(笑)。きょうだい児の活動について複雑な思いはありつつも、「和子の自由だから」と応援してくれて、著書を買って周囲に配ってくれたり、ありがたいなと思いますね。弟と母も、「お姉ちゃんは頑張ってきたんだし、好きなことをやればいい」と応援してくれています。

 

── 親や障害のある兄弟姉妹は、きょうだい児の苦しみを主張されると、自分を否定されたように感じることもあるかもしれません。その点についてはどうですか。

 

藤木さん:やっぱりそこはすごくデリケートなので、複雑な思いを持たずに応援してもらうのは、難しい種類の活動だと思います。私は環境や運に恵まれて弁護士になれて、一歩次に進めたことで、いろんな世界を見せてもらえてありがたいですね。

 

PROFILE 藤木和子さん

ふじき・かずこ。弁護士、手話通訳士。1982年生まれ。東京大学卒業。5歳のときに3歳下の弟の聴覚障害がわかり「きょうだい児」となる。現在はきょうだい児の立場の弁護士として発信や相談などの活動を行う。「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」副会長、「聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会」代表を務め、「シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト」共同運営にかかわる。著書に『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと 50の疑問・不安に弁護士できょうだいの私が答えます』(中央法規出版)など。

 

取材・文/小新井知子 写真提供/藤木和子