「夫は3階で妻が2階で暮らす」家庭内別居をしている奈美悦子さん。それこそが、夫婦円満の秘けつだとか。適度な距離感でお互いを思う「熟年夫婦の未来像」がそこにはありました。(全5回中の4回)
夫婦円満の秘けつは「夫婦の家庭内別居」
── 56歳のとき、いまのご主人と再々婚されています。仲良し夫婦とお聞きしますが、夫婦円満の秘けつは何でしょう?
奈美さん:やっぱり家庭内別居でしょうか。結婚当初からずっと、夫とは家庭内で別々に暮らしています。私が2階で彼は3階。夫には自分の部屋に入らないでくれと言われているので、絶対に立ち居らないし、お掃除もしません。たとえば、宅配便が来たときはトントンとノックをしたり、あとはLINEで「荷物届きましたけど」と伝えたり。
外階段があって、3階から直接外へ出ることもできるので、顔を合わせないと夫が生きているのか死んでいるのかもわからない(笑)。だから朝なかなか起きてこないと、もうドキドキです。もしかして死んでいるんじゃないの?警察に「旦那さんが亡くなったのを気づかなかったんですか?」って犯人扱いされたらどうしよう、なんて妄想しちゃったりして。
食事は2階で一緒に食べるけど、夕食が終わると彼は3階に上がっていきます。その後は部屋にこもりきり。3階にもお風呂とトイレもあって、そこで用は済んでしまうので。たまに小腹が空いたときに、「何か食べるものある?」って降りてくるくらいでしょうか。だから、同じ家にいても、それぞれ好きなことをして過ごしている感じ。お互い自由にできる時間と空間があるからいいんでしょうね。だからこそ二人の時間も大切にできる。食事はもちろん、一緒に朝の散歩に行ったり、何か私に用事があると、彼が車で送ってくれたりもします。
── 家庭内別居に踏みきったきっかけとは?
奈美さん:一緒に暮らしはじめた当時、私は早朝のレギュラー番組を持っていたので、3時過ぎには起きなければなりませんでした。彼はカメラマンなので、ロケハンがあって、4時、5時に出かけて行くことも。お互い休日も違って、そうなるとたまの休みも朝起こされてしまうから、ゆっくり寝るのは難しい。だったらお互いのために寝室を別にしよう、ということになりました。
── ご夫婦で出かけることは?
奈美さん:ワンちゃん連れで旅行に行くのが毎月恒例になっていて、それは私の長年の夢でもありました。でも旅行に行くと、ふだん夫と一緒に寝てないから眠れなくて。旅先では当然、部屋が一緒になるじゃないですか。ひとり寝に慣れちゃったから、横で寝返りを打たれたりするともう目が覚めてしまう。だから最近は宿についたらまず温泉に入って、昼間っからビールを飲んで、昼寝をするようにしているんです(笑)。
夫婦ケンカはしない「怒ると縦シワが増えるだけ」
── 夫婦ケンカをすることはないですか?
奈美さん:ケンカをしたことはありません。それどころか、口答えをしたこともないですね。夫はもう正真正銘の九州男児で、女は家のことをやって当たり前、2、3歩後ろを歩いて当たり前、女が口答えするなんてとんでもない、というタイプ。ふだんは小さい声でボソボソ話すのに、怒ると急に大声になって、「何回言えばわかるんだ、頭が悪いんだから!」なんて、叱られることもたびたびです。
でも、私は彼の前で大きな声を出したことなんてないし、家ではずっと敬語です。何か怒られて理不尽だなって思っても、「すみません、気づかず申し訳なかったです」と言うようにしています。外ではズケズケ言いたいことを言っているのに、夫の前ではそんな感じなものだから、他人に話すと「二重人格なの?」と言われることも(笑)。ケンカは絶対にしない、というのが私のポリシー。だって、ケンカをすると女はブスになるから。
──「ケンカをすると女はブスになる」とは?
奈美さん:怒ると知らず知らずのうちに眉間に縦シワができるんですよね。縦シワができるのが嫌だから、絶対に怒らない。何を言われても笑う。笑うと横シワになるから。横シワって可愛いじゃないですか。
でも、前の夫とはよくケンカをしていました。それももう対等に。私もずっと仕事をしてきたから、「私だって稼いでいるんだから、偉そうに言わないでよ」っていう気持ちがあったんだと思います。実際そう言葉に出さなくても、やっぱり思いは顔に出るんですよね。あるとき、ケンカをしている自分の顔が鏡に映った姿を見て、ギョッとしました。悪魔みたいな顔をしていたんです。そこで、「ケンカはダメだ、縦シワができる、ブスになる」と学習しました。だから、再婚してからは絶対に怒らないし、何を言われて逆らわないようにしています。それが私たちにとっては夫婦円満でいられるコツでもあって。何より怒ると自分が損するだけ。自分のためにしているんだ、と思うと腹も立ちません。