料理人として2010年代にメディアで活躍した川越達也さん。「高級すぎる水」に対する批判で姿を消したと思われていましたが、そこには別の理由があったと語ります。(全4回中の2回)
レストランが好きすぎた結果…
── 代官山にレストランを構え、テレビや雑誌などメディアでも幅広く活躍されていましたが、ある時期からメディアで川越さんの姿を見る機会が減ったように思います。
川越さん:もともと30代中盤くらいから40歳になったら無期限休業に入ろうと思っていたんです。27歳で独立してメディアにもたくさん出させていただきましたが、人生の後半を考えたとき、まだまだ40代って若いし、また違う自分が発見できるかもしれない。料理だけにこだわらず、自分ができることを考えたいって思ってたんですよね。
── レストランは予約の取れない店として大繁盛だったと思いますが、いったんお店も閉じようと?
川越さん:僕、レストラン大好きなんですけど、カッコつけて言うと、大好きすぎて少しつらくなっちゃったんです。東京のど真ん中でお店を構えていたこともあるかもしれませんが、あまたもあるレストランの中で、誕生日や結婚記念日に川越さんのお店に行こうよって言っていただけるってそんなうれしいことってないですし、誰かの人生に寄り添えるような仕事ってすごく素敵だなって今でも思っています。
でも、僕は理想が高いのかなぁ…。極論を言えば、料理が100点でもサービスが50点なら、僕が目指しているものではないんです。でも、レストランって1人じゃできなくて、みんなで回しているんですよ。僕が思うホスピタリティや、こんな空間にしたいなってイメージがあっても、僕が思ってることを細部の細部までスタッフに伝えるのは難しかったし、全員と共有するのは厳しいんだなって気づいちゃったんです。
── プロフェッショナルがゆえに、いろいろ気になることもあったのでしょうか?
川越さん:たとえば、オープン前にミーティングをしていましたが、ホールスタッフに全テーブルに座ってもらっていたんです。壁側と窓側、中央などいろいろな席に座ったから見える景色や照明の角度、全体の空気感とか、20席あれば20席の視点があるわけです。座った席の景色や空間がすべてだから、あと5センチ照明の向きがこっちじゃないとダメだとか、空調の角度がもう少しこうだとか、まぁ感覚の問題なんですけど、すごく気になっちゃうんですよね。
たとえばキッチンに戸棚があります。その下にまな板があって、戸棚を開けるたびに埃も落ちてくるって気になっちゃうけど、そうじゃない人もいる。あと、コックコートの綺麗さですかね。もちろん忙しく働いていればコックコートが汚れることもあります。当然ですが、極力汚れない綺麗な所作が大切だと考えていました。もし汚れたらすぐ着替える。お客さまにはできるだけシミひとつない正装でお出迎え、お送りをしたい。そんなこだわりもありました。
僕がめんどくさいのかもしれないけど、そうしたことがたくさんあって、誰かと一緒にやるのは無理だなって。何げない瞬間瞬間のことが気になっちゃって、ちょっとしんどくなったのもあります。