夫が寄り添ってくれた経験を子どもたちにも

── 4人の男の子を出産されましたが、妊娠を機に病気が発覚したことがあったと伺いました。

 

大久保さん:4男を妊娠する前に流産したのですが、妊娠中に部分胞状奇胎という異常妊娠だったことがわかり、6週で妊娠が継続できなくなると診断を受けました。そこから掻爬(そうは)手術をしたのですが、組織が子宮に残っていて、hCGというホルモンの値が妊娠を継続しているときと同じ状態だと言われました。抗がん剤の治療が有効とのことだったので、1週間抗がん剤の投与をして、自宅療養を1週間というサイクルを3クール行いました。私はすぐに効果が出て1か月半ほどで数値が下がりました。

 

── 抗がん剤治療の前に、旦那さんと息子さんが全員丸刈りにしたというエピソードが話題になりました。

 

大久保さん:子どもたちは小さかったので、そのことをはっきり覚えているわけではないのですが、いまだに話に上がったり、写真で見たりする機会もあるので本人たちも認識しています。本当にドラマで見るような感じで、ごっそり髪の毛は抜けたのですが、もともと毛量が多かったので、見た目はそこまで少なくなった感じはなく、外出の際は帽子をかぶって過ごせていました。毛量はもともとの半分くらいに減った感じで、まつげや眉毛は結構抜けました。私の場合は治療の効果がすぐ出たものの、数値が下がらず抗がん剤治療を長く続けていけば、もっと髪の毛も抜けていたと思います。子どもたちも夫もそれ以降に丸刈りにしたことはないのですが、今スペインでサッカーをしている3男が、先日、現地の美容室で丸刈りにしていました。丸刈りはあれ以来だと思います。

 

大久保嘉人さんと息子さんたち
抗がん剤治療が必要となった莉瑛さんを励まそうとみんなで丸刈りに

── 当時、莉瑛さんは不安な思いがあったと思いますが、家族みんなが丸刈りというのは微笑ましい光景ですね。

 

大久保さん:今振り返ってみると、夫は私にどう寄り添うか考えて行動してくれたのかなと思います。男の子3人、丸刈り姿が揃うとかわいいですよね。私も心から笑顔になれたので、誰かのつらいときに寄り添う気持ちを見せるというのを、子どもたちに教えてくれたんだと思っています。子どもたちも、いつか家族や大切な人ができたときに、自分は何をできるか考えるきっかけになってくれたらいいですね。息子全員がサッカーをしていますが、サッカーはチームスポーツですし、わが家はまず家族がチームだという感覚があります。夫はずっとチームで戦ってきたこともあるので、家族にも協調性を大事にしてくれていると感じます。

 

── お子さんたちが巣立った後の夫婦像のイメージはありますか。

 

大久保さん:子どもたちがスペインでサッカーをしているので、夫もまたスペイン語を勉強しようかなと言っていて。私もまた英語を勉強しようと思っているところなんですが、これには理由があって。夫は私に負けるのが嫌なので別々の言葉を勉強するらしいです(笑)。でもお互いに違う知識を深められるのはいいことかなと思っています。

 

先日、いとこの結婚式の集まりがあって、私の父が締めの言葉として「結婚とは、見つめ合うのではなく同じ方向を向いて歩くことだ」という話をしていたんです。それを聞いて、私たち夫婦はまさにそうだなと思いました。ロマンチックなことはちっともないんですが(笑)、最初から同じ方向を見ていて、これからもきっと同じ方向を向いて歩んでいくんだろうと思っています。

 

PROFILE 大久保莉瑛さん

おおくぼ・りえ。1983年長崎県生まれ。短大を卒業後、航空会社勤務を経て、夫で元プロサッカー選手の大久保嘉人さんのスペイン移籍を機に結婚、退職。現在19歳、14歳、12歳、7歳の4人の息子を育てながらサッカースクール「Btrece(ベトレーセ)」の運営を行う。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/大久保莉瑛