将来の夢を書いて「先生から呼び出しも」
── 高校生からピアノを本格的に弾き始め、歌手を目指したそうですね。
Kさん:日本でも子どもが「将来なりたいもの」を聞かれることはあると思うのですが、韓国では高校生になっても紙に書かされる機会が多かったです。僕は「シンガーソングライターになりたい」と書いていたのですが、そのことで先生に呼ばれたことがありました。
高校生になると、ほとんどの子が「どこどこの大学に行きたい」と書くので、先生から「なんで君は大学と書かないのか」と聞かれました。僕はすごくそれが不思議で。夢を書けと言われたから正直に書いたのに、それが大学ってどうなんだろうと。こういう風潮が変わればいいなと思っていました。僕が高校生だったころの話なので今はどうかわかりませんが、変わっているといいですね。子どもたちには、自分の夢を素直に書ける子になってほしいと思いますし、夢があるならどんどん人に言ったほうがいいと思います。それで人からバカにされたり、とやかく言われたりしてもいいです。そこで「見返してやるぞ!」と思う気持ちも大事だと思っています。
── お子さんが芸能界を目指したいと言ったらどうしますか。
Kさん:もちろん本人たちが希望するのであれば応援したいです。妻は、関根さんの姿を見て育ったので、活躍する人の裏で苦労する人や、何年経っても売れない人が多いということも知っています。ほかの仕事との両立も難しいですし、そういうことも知ったうえで妻は芸能界に入ったんですけど、僕は何も知らずキラキラした世界に憧れていました。「歌手になれたら、死ぬまでキラキラできるんだ」と思っていたので、いざ入ってみてからのギャップは大きかったです。
もし子どもが芸能界に入りたいと言ったら、苦労がつきもので、輝く時間は一瞬だということと、好きなことをし続けるには、極端な話ですが食事と睡眠以外はずっとこれをし続けられるのかも伝えたいです。それができないようであれば、続かない世界ですよね。でもこれは、芸能界に限った話ではないと思っています。大人がカッコよく見える部分は本当に少しで、努力や苦労が必要なことがほとんど。でも、それでもやってみたいと思えることを見つけてほしいですね。
── 好きなことで夢を叶えても苦労はつきものです。
Kさん:もしかしたら時代と逆行する話かもしれないのですが、競争や順位がつくのはよくないという意見がありますね。もちろん、競争ばかりにとらわれて本質を見失うことは避けたいのですが、それが現実だということもどこかのタイミングで知ってほしいと思っています。自信をなくすこともあるかと思いますが、わからないまま大人になるとしんどくなります。それに、人と同じでいると個性は生まれません。競争や順位があるからこそ、「ここに縛られたくない」という思いから個性が出てくるものだと僕は考えています。バランスをとりつつ、自分らしく生きてほしいなと思いますね。
PROFILE Kさん
けい。韓国・ソウル出身。シンガーソングライター。2005年3月『over...』でデビュー。同年11月『1リットルの涙』の主題歌『Only Human』が大ヒット。2009年、外国籍としては史上初となる全国47都道府県を制覇した弾き語りツアーや、2010年には自身初となる日本武道館公演など、圧倒的なライブパフォーマンスで高い支持を集める。2022年、大阪在住のR&BバンドNeighbors Complainとのニュープロジェクト『Purple Drip』も始動。2023、2024年にはミュージカル『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』にDuke役として出演。ライブ以外にもNHK『ハングルッ!ナビ』のMCやラジオDJ、ナレーターなど幅広く活動している。
取材・文/内橋明日香 写真提供/K