50代夫婦のもとに突然赤ちゃんがやってきて

── 奥さんはどういった状況で、太郎くんと対面したのですか?

 

山口さんの妻:日本の子どもは生まれたばかりのときは産着を着ていますが、ウクライナの新生児は普通の洋服を着て寝ていたので、まず驚きました。私は孫がいてもおかしくない世代なので最初は抱くのが怖かったし、抱いたらちょっと泣かれてしまって。でも、この子に母親として認められるように一生懸命頑張ろうと思いました。

 

通常は夫婦で引き取りに行き、ホテルに滞在することになるのですが、私はひとりだったため出国まで産院に滞在させてもらえることになりました。そのあいだに太郎の出生届を出しに行ったのですが、ウクライナの法律によると代理母の場合、国籍は発行されないそうで、この子は日本国籍なんです。帰りはドイツではなく、チューリッヒ経由で成田に帰国しました。飛行機の中でもずっと寝てくれていて、とてもラクでしたね。

 

── 太郎くんを抱っこした奥さまを見たときは、どんなお気持ちでしたか?

 

山口さん:成田空港で遠くにふたりの姿が見えた瞬間、なんだか変な感じがしましたが、目頭が熱くなりましたね。抱っこするのも怖くて、恐る恐るでした。太郎は起きていて、ニコニコ笑っていた。ずいぶん愛想のいい子だなと。もっとハーフっぽい感じになるのかなと思っていたら、日本人顔でよかったと思いました。

 

山口敏太郎さんと息子・太郎くん
山口さんと太郎くんは食べ物の好みが似ているそう

── 初めての子育ては、いかがでしたか?

 

山口さんの妻:生後100日ごろまでは3時間おきの授乳でふたりとも寝られず、食事は宅配、家事は洗濯しかできないくらい大変でした。50代の夫婦に突然、子どもがいることをご近所にどう伝えるかというのも問題で。最初は誰にも言わなかったのですが、親しいおばちゃんたちに話したら、「何があったの?」って根ほり葉ほり聞かれて(苦笑)。でも、犬の散歩を兼ねて公園に出かけているうちに、だんだん馴染んでいきましたね。周りの人たちはみんなすごく受け容れてくれています。ありがたいですね。

 

PROFILE 山口敏太郎さん

やまぐち・びんたろう。1966年、徳島県生まれ。1990年代よりオカルト作家・研究家として活躍。「オカルト界の巨匠」と呼ばれる。多彩なクリエイターのマネージメントを行う山口敏太郎タートルカンパニー代表。2022年に代理母出産にて長男・太郎くんが誕生。

 

取材・文/原田早知 写真提供/山口敏太郎