2023年に個人事務所を設立し、ものまね芸人だけでなく声優としても活動の幅を広げている山本高広さん。20代で上京した当時は声優の専門学校に通っていたそうですが、その後十数年経って、再び夢を追いかけたきっかけは──。(全4回中の4回)
あの声をやっていた山本高広って、ものまね芸人の?
── 最近ではものまね芸人だけでなく声優としてのお仕事も増えています。なにかきっかけがあったのでしょうか?
山本さん:20代のころに声優になりたくて専門学校に通っていました。声優の仕事にはもともと興味があったんですが、専門学校を卒業した直後は事務所に所属できず、声優の仕事をする機会がありませんでした。
2009年に映画 『クレヨンしんちゃん オタケべ!カスカベ野生王国』に声優としてゲスト出演させてもらったのですが、それがすごく楽しかったのがきっかけでしょうか。もっと声優の仕事にもチャレンジしていきたいと思って、知り合いのテレビ制作会社のプロデューサーに相談したところ、声優の制作会社を紹介してもらう形で、声優の仕事が少しずつ増えてきました。
とはいえ、声優の仕事を増やすのってけっこう難しくて。私個人としてはSNSで出演情報を告知することくらいしかできず、まだ私が声優の仕事をしていることを知らない人は多いと思います。ただ、さいわいにも今ではけっこう大きな役をいただけるようになり、本当にありがたいですね。いただいた仕事にひとつずつしっかり取り組むことで、地道に積み重ねていくしかないと思っています。
── 声優のお仕事のおもしろさはなんですか?
山本さん:芸人の仕事は自分で作ったネタを披露したときに、目の前にいるお客様が「おもしろい」と笑ってくれるのがやりがいです。お客様の前だとテンションが上がるし、笑ってもらえると最高に気持ちがいいですね。
いっぽうで、声優の仕事はお客さんの前に立ってやることはなく、ひとつのブースに何十人もの声優が集まって、自分の番が来たらマイクの前に立って演技をするんです。演技のしかたを誰かが教えてくれるわけではないので、正直最初の4〜5年は技術的なことがわからず、どうすればいいのかと。横にいる声優さんに聞いたり、周りの声優さんを参考にしたりして、独学でなんとか基本を身につけた感じです。
5年目くらいからはようやく周りが見えるようになり、おもしろい人や上手い人がいたらすかさずまねをして、技術を盗もうと思えるようにまでなりました。最近では自分の声の演技で、周りの声優さんが、肩を上下に振るわせて声を出さずに笑ってくれているのを感じたときや、監督からOKをもらったときが、やっぱりうれしいですね。
声優の仕事で転機となったのは、2020年に韓国ドラマ『梨泰院クラス』のオ・ビョンホン刑事役の吹き替えを担当したときのことです。当時、「芝居がもっとうまくならないとダメだ」と言われ悩んでいたんです。何度も自分の声をスマホに録音し、感情をこめたお芝居ができるように練習に取り組みました。まだまだ未熟なところもありますが、仕上がりを見たときに「これが私の声なんだ」と、自信を持てた作品です。
自分の声が作品として残るのもやりがいのひとつで、クレジットを見て「あの声をやっていた山本高広って、ものまね芸人の?」なんて言うのを聞くと、「よしよし!」と思ったりもします。
── 声優としての今後の目標はありますか?
山本さん:声優としての仕事の幅はもっと広げたいですね。将来、年をとってものまね芸人として舞台に立つのが難しくなっても、声の仕事は長く続けられると思っています。声優として大きくブレイクして、もっといろいろな作品に出演したいですね。誰でも聞いたことある国民的なキャラクターの声を担当するのもひとつの夢です。正義のヒーローや主人公ではなく、ちょっとクセのあるおもしろい役などできたらいいですね。
妻に相談せず独立も「コロナで収入は大打撃」
── 2023年に芸能事務所から独立され、個人事務所を立ち上げたそうですね。なにかきっかけがあるのでしょうか?
山本さん:声優のお仕事も含め、やりたいことが増えてきたのがいちばんの理由です。2001年から2021年の長きにわたってワタナベエンターテインメントさんにお世話になったのですが、事務所が専門としていない声優の仕事が増えてきたのもあり、声優事務所に所属し声優として実力をつけたかったので移籍しました。そして声優事務所で2年間所属しましたが、今度は声優とものまねタレントのマネージメントの両立が厳しいようで、「それならば、独立して自分でやったほうがよいのでは…」と思い、個人事務所を設立してひとりでやることにしました。
芸人さんのなかには構成作家をつけて活動している人もいるのですが、私はもともとひとりでやっていたので。ものまねの衣装やカツラを自分で用意するなど、独立してからもやることは同じです。私は決めたらすぐに行動したいタイプなので、妻にも相談はしましたがやると決めたら引き下がらない性格ですので、おそらく妻はかなり不安だったとは思います。
── 独立されて苦労したことはありましたか?
山本さん:ワタナベエンターテイメントを辞めたのが2021年なのですが、運悪くコロナ禍と思いっきり時期がかぶってしまったので、その部分は不安でしたね。実際、ものまねのイベントは多くが開催できなくなってしまい、収入にも大打撃が。家のローンが今までのように払えないかも…と焦ったこともありました。いよいよ家計的にもまずいかも、と青ざめたころからコロナが少しずつ収まり、イベントも開催されてホッとしましたね。
独立してから、マネージャーもいないので、仕事の交渉、スケジュール管理、経理、出張手配などもすべて自分でやっています。もう慣れましたが、最初のころはパソコンの使い方もわからず、妻に教えてもらっていました。家族のサポートを受けながら、ここまで頑張ってこられたと思います。
PROFILE 山本高広さん
やまもと・たかひろ。1975年、福岡県生まれ。織田裕二、ケイン・コスギなどのものまねを得意とするものまね芸人。声優としても数多くの吹き替え映画やドラマ、アニメなどに出演。調理師免許を持っている。
取材・文/酒井明子 写真提供/山本高広