ネガティブな情報の沼にハマりたくない

タレントの小川恵理子さんと夫
いつも支えてくれる夫と

── 闘病中、ご家族からはどのようなサポートがありましたか。

 

小川さん:私、夫と2人暮らしなんですけど、本当に支えてもらいました。お恥ずかしい話、私は泣き虫なのでよく「うぇーん」と泣いてしまうんです(笑)。夫は寡黙な人なのですが、何も言わなくても背中をそっと撫でてくれたり、「背中をとんとんしてくれぇ」と言うと、黙ってとんとんしてくれる。そういうふれ合いがすごくありがたかったですね。

 

── そういう気持ちをちゃんと伝えられるのは素晴らしいですね。

 

小川さん:でも、言えない人もたくさんいると思うんです。だから、周りの人はさりげなくタッチしてあげるのもいいかもしれません。ふれ合うことで言葉以上に気持ちが伝わることもあるんじゃないかなと感じますね。

 

── お姉さまも同じ乳がんをご経験されていらっしゃるとのことで、相談されることも多かったのでしょうか。

 

小川さん:そうですね。姉は10年前に乳がんを経験していて、最初から相談していました。私が病院に行くときはいつもついてきてくれたんです。特に印象に残っているのは病院の待合室でのこと。待合室はそれぞれ皆さん思いを抱えていらっしゃるため、どうしてもつらい空気になりがちですよね。私も最初は不安で胸がいっぱいでした。ただ、姉が側にいてくれたおかげで気持ちがやわらぎました。

 

余談ですが、私たちは福井の出身なんです。姉が地元の方言で話すので自然と肩の力が抜けていって心がなごむんですよ。つらい状況のなかでもそうした時間は私にとってありがたいものでした。

 

タレントの小川恵理子さん
手術後に姉とふるさとへ

── お姉さまの存在は大きな支えになっていたんですね。

 

小川さん:ええ。実は乳がんの可能性が判明した時点から、ネットで情報を調べるのは控えようと決めたんです 。いろんな情報を拾っていくと、なかにはネガティブな情報も多くて、どんどん不安になっていき「このままでは沼にハマってしまいそうだ」と感じたからです。その代わりに、同じ経験をした姉や義理の妹など身近で経験した人たちから話を聞くようにしました。実際に経験した人の生の声を聞けるというのは本当に大きな支えになります。「note」などでメッセージを送ってくださった方も含め、前向きな気持ちでいられる話を聞けたのはよかったなと思っています。

受け入れられない自分がいてもいい

ヒールをすべて処分した
ヒールをすべて処分した

 

── 闘病を経験されて、何か心境の変化などはありましたか。

 

小川さん:はい。最近、髪を短くしたり、身の回りの整理をしたりするなかで偶然にも気づいたことがあるんです。それは、何かを手放すときって最初はすごくつらいんですよね。一つひとつに思い出があるから。でも、実際に手放してみると、思っていたほどたいしたことなかったんだな、ということ。

 

これ、乳がんの手術を受ける前と同じだなと気づいたんです。最初は自分の乳房がなくなるなんて想像できなかったし、悪いことばかり考えていました。正直、イヤイヤながら、でも逃げられないからと、そう思って手術を受けたんです。そしていまになって思うことは、そんなにびっくりするほどたいそうなことでもなかったと。

 

それよりも、それを受け入れることが一番難しくて、頭ではわかっていても心が追いつくまでに時間がかかりました。

 

── 受け入れることが大事だとわかっていても、いままでの自分を否定することになりかねませんから、そこで悩まれている方は多いかもしれません。

 

小川さん:そうですね。簡単なことではないですよね。だから、矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、もしいま、受け入れずに悩んでいる方は「受け入れられなくてもいい」と私は思うんです。そういう自分もあなた自身なのだから。「なんで私だけがこんなにつらいの」って思うこともあるでしょう。でも、そういう思いも大切にしていいのではないかなと。

退院時に義妹が持ってきてくれた果物。痛みで食欲ゼロの中、唯一食べられた
退院時に義妹が持ってきてくれた果物。痛みで食欲ゼロの中、唯一食べられた

 

── なるほど。無理をしないと。

 

小川さん:ええ。私が一番言いたいのは、ネガティブな感情を抑え込まないでと。「こんなこと思っちゃダメ」という自分を責めないでほしい。思いたいことを素直に思う。そうすることで心がラクになることはあると思うんです。自分の気持ちを抑え込まないで正直になることがいいのかもしれませんね。

 

だからといって自分の気持ちをすべてオープンにしてくださいという話ではないですよ。オープンにするのが苦手な人もいるでしょう。それでいいんです。自分の心地よい方法を見つけられたらいいですよね。

 

PROFILE 小川恵理子さん

おがわ・えりこ。関西地区を中心に活動するタレント。松竹芸能所属。福井県鯖江市出身、大阪府東大阪市在住。「恵理ちゃん,」「恵理姉」の愛称で親しまれている。

写真提供/小川恵理子