「いずれは親から自立しなくては…」大学ではひとり暮らしに挑戦
── その後、高校、大学と受験で進学されています。大学選びのポイントは何でしたか?
千葉さん:中学生のときに車椅子カーリングを始めたのですが、一緒にカーリングをする仲間は私みたいに生まれつきではなく、怪我のために車椅子になった人が大勢いました。私は地域の学校に通ってきたからこそ、中学生になるまでは自分以外の車椅子ユーザーと会ったことがなかったんですね。そこで、障害や福祉についてもっと知りたいと思い、福祉を学べる札幌学院大学に入学しました。
札幌学院大学には当時「バリアフリー委員会」という学生と教職員有志によるボランティア団体があり、実際に車椅子ユーザーやほかの障害を持った先輩がその助けを得ながら学んでいたのも決め手のひとつでした。たとえば身体や目、耳が不自由でノートが取れない学生の隣で筆記代行やノートテイクをしてくれるといった活動を通して、サポートを受けながら学べる体制が整っていました。ほかにも雪道では車椅子で通学できないので、バリアフリー委員会のメンバーがシフトを組んで通学の手助けをしてくれることもありました。
あとは、「実家から離れたかった」というのもあります。大学は実家からだと車で3時間かかる場所にあるので、ひとり暮らしをするのにちょうどいいと思いました。それまで親に何もかもサポートしてもらって「温室育ち」と言われていたけれど、やはり親はいつか自分より先にいなくなってしまうので…。将来のことを考えて自立しなくてはという思いがありました。
── ひとり暮らしをしてみていかがでしたか?
千葉さん:すごく楽しかったです!今までは常に親が一緒にいるのが当たり前だったので、友達と飲んでカラオケに行って、ということが当たり前にできる生活がすごく新鮮で毎日楽しくて仕方なかったです。
── 大変だったことは何ですか?
千葉さん:もちろん失敗もありました。電子レンジの置き場所が冷蔵庫のうえしかなかったのですが、リゾットを電子レンジで温めて取り出すときに失敗してやけどをしたことや、車椅子が雪に埋もれて、通りかかった方に助けてもらったことなど。でも、楽しさのほうが大きかったです。そのころは居宅介護支援サービスを利用していたので、食事に関しては2時間単位のスポットで来てくれる介助の方につくり置きしてもらって乗りきっていました。
「車椅子の私にも非日常を味あわせてくれる」夫との出会い
── 大学を卒業され、2017年に東京パラリンピックのNHK障害者キャスター・リポーターに決まったあとは、東京でもひとり暮らしを経験されたそうですね。そのころにいまの旦那さんと出会ったとか…。
千葉さん:夫とは2017年に東京パラリンピックのNHK障害者キャスター・リポーターに決まって東京で暮らし始めたころ、アプリを通して知り合いました。上京後しばらくは知り合いがおらずホームシックだったので、マッチングアプリというよりは、「ヒマな人で話しましょう~」みたいなノリのアプリです。彼は私に障害があることを告げても「あ、そうなんだ」くらいのあっさりした返事で受け止めてくれて拍子抜けしました。その後、実際にお会いして、すぐにおつき合いが始まりました。
彼が神奈川県在住だったのでデートは湘南方面が多かったのですが、どんな場所でも彼は「車椅子だから行けないね」とは言わないんです。たとえば江の島や鶴岡八幡宮では、上のほうに登るのに階段をおんぶして連れていってくれるなど、非日常を味わわせてくれるところが新鮮でした。今までと見える景色が変わりましたね。
── 東京と神奈川で離れて暮らしていたのですね?
千葉さん:最初はそうだったんですけど、親がすぐに公認してくれたので、私が引っ越すタイミングで一緒に住むようになりました。でも同棲して1~2年経つと、「帰宅すれば美味しいごはんがあり、お風呂がわいていて、彼がいる」という生活に私が慣れて、ヘルパーさんよりも彼に甘えることが増えてしまったんです。あるとき彼から「妹にしか見えなくなった」と言われて別れることになりました。ひとりになって時間をおけばおくほど、余計にやっぱり彼がいいな、彼しかいない、という気持ちが大きくなっていき、結局、私からアタックしてもう一度おつき合いすることになりました。それからは、私のケアに関してはひとり暮らしのときと同様、必ずヘルパーさんに入ってもらうことにして、彼任せにしないことで、いい距離感でつき合えるようになりました。
── プロポーズはどちらから?
千葉さん:復縁する際に私から「結婚しなくていい、子どもも望まない、あなたとただ一緒にいたい」と言っていたんです。でも、あるときふと「このままパートナーでいるのは寂しいな。やっぱり結婚したいな」と思って、そのことを伝えると彼も前向きな様子でした。
その後、ふたりで旅行へ行ったんです。私としては結婚話が出た後だから、旅行期間中にプロポーズされるかもしれない、という期待がありました。普段は使わない高級ブランドの化粧品をつけてプロポーズされる準備は万端だったのに、結局、旅行中は特に何もなく(笑)。しかも、慣れない化粧品を使ったせいか肌が荒れてしまって、帰宅後には病院へ行くことになりました。もう悲しくてやりきれない気持ちでいたら彼が「なんでそんなに機嫌悪いの?」と聞いてきて、思わず「プロポーズしてくれると思ってた」と言ってしまったんです。そしたら彼は、旅行中に寄ったオルゴールショップで指輪が入るサイズのオルゴールを買ってくれていて、「本当は誕生日に指輪を入れて渡すつもりだったんだよね」と言って渡してくれました。結局2021年、私の誕生日に入籍しました。
脳性まひで重度障害があるので、結婚できるかは不安でした。人生って奇跡の連続だなと思います。
PROFILE 千葉絵里菜さん
ちば・えりな。1994年、北海道帯広市生まれ。1歳で難病指定の胆道閉鎖症の手術をし、2歳で脳性まひが発覚。以降、重度身体障害者として車椅子生活を送っている。2017年~2021年、東京パラリンピックのNHK障害者キャスター・リポーターとして活躍。2022年に結婚し、2023年には長女を出産。家族や重度訪問介護ヘルパーに支えられながら育児をしている様子をSNSで発信し続けている。
取材・文/富田夏子 画像提供/千葉絵里菜